心優しきカナディアンは日本シリーズ直前に宮崎へ飛んだ。フェニックスリーグに参加するためで調整が主目的。だが、もう1つ目的があった。「鶏(けい)のお母さんにお別れをしたかったんだ」。清武町にある「炭火焼き 鶏」。地鶏の名店で、青き目の男はこよなく愛した。

助っ人仲間に育成の日本人選手も引き連れ、七輪(しちりん)を囲みながら「支配下に上がったら背番号20を譲るよ」と熱い約束を交わしたこともあった。「選手として来るのは最後だから」。プロ野球からの引退を一足先に報告した。

来日8年目。日本人以上に日本人らしい一面は、最後の引き際にも表れた。23日の日本シリーズ第4戦。敗れた巨人は今季限りで引退する阿部が仲間の手に押し上げられ、宙を舞った。坂本勇も、もう1人の戦友の節目に惜別の胴上げへと誘った。だがかたくなに首を横に振る。「アベの最後の瞬間をみんなが見ている。僕のことはいいんだ。陰にいる方が僕らしいから」。とことん控えめだった。

物語はもう少しだけ続く。東京オリンピック(五輪)出場を目指すカナダ代表の一員としてプレーする。五輪出場権のかかるプレミア12に向けて侍ジャパンと戦うため、沖縄の地を踏んだ。僚友だった小林とハグを交わし「(阿部もつけた)背番号10番のプレッシャーを感じているんじゃないか?」と冗談でエールを送った。「カナダにとって困難な道だが、トライする。プロ野球は引退した。ただ、まだプレーしたい。五輪でプレーできたら最高だ」。スコット・マシソン投手(35)は東京で野球人生の集大成を迎えることを夢見ている。【広重竜太郎】

巨人退団会見を終えたマシソン(右)はサプライズで登場した阿部と笑顔で握手(2019年10月25日撮影)
巨人退団会見を終えたマシソン(右)はサプライズで登場した阿部と笑顔で握手(2019年10月25日撮影)