さすがに今年は難しいかなと思っていた。

今季限りで阪神を退団。他球団移籍を模索しながら、ハードなトレーニングを継続している。誰の目にも慌ただしいはずの今オフ。それでも鳥谷は11月中旬、多忙の合間を縫ってベトナムの地に降り立った。

「だって、この活動は別に野球選手としてやっているわけではないからね。生きている限りは続けようと思っているよ」

15年に発足した一般社団法人「レッドバード」の理事を務めており、アジアの恵まれない地域の子供に靴、文房具を届ける活動を継続中。オフになると危険を承知の上で、フィリピン・マニラのスラム街やタイ西部のメラ難民キャンプ、ミャンマーまで足を運んできた。

今年の訪問先はベトナム。1日目は首都ハノイから車で1時間ほどの距離にあるドンアイ沖縄経済文化交流センターを訪れ、熱心に日本語を勉強する生徒たちと触れ合った。2日目は在ベトナム日本大使館を訪問。ベトナムの現状についてヒアリングを重ねた。

「ベトナムの中でもどの地域に靴が不足しているのかとか、いろいろ勉強させてもらうことが多かった。やっぱり行って良かった」

現地のボランティア団体も紹介してもらい、今後につながる有意義な旅になったようだ。

実は今回、鳥谷がベトナム訪問に参加しないプランもあった。「レッドバード」関係者も去就が決まっていない中での負担を心配していたが、当の本人は断るどころか「行きたい」と志願したという。

「自分の状況は関係ない。いろんな人がせっかく靴や文房具を送ってくれたんだから、それを持っていくのは当然のことでしょ」

12月末現在、まだ移籍先は決まっていない。決して楽観できる状況ではない。それでも鳥谷は動じない。

苦境に立たされても、普段通りでいられる。長年第一線を戦い抜いてきた男の強さを、再認識させられる。【遊軍=佐井陽介】

◆募集 鳥谷が理事を務める「レッドバード」は、履かなくなった靴や未使用の文房具を募っています。詳細は「レッドバード」公式サイト(http://www.redbird.or.jp)まで。送り先は〒901・2121 沖縄県浦添市内間5の1の23 株式会社丸三 本社内「一般社団法人レッドバード事務局」(送料は送り主の負担でお願いします)。

前阪神鳥谷は一般社団法人「レッドバード」の活動でベトナムを訪れ、ドンアイ沖縄経済文化交流センターで日本語教育の現場を訪問(レッドバード提供)
前阪神鳥谷は一般社団法人「レッドバード」の活動でベトナムを訪れ、ドンアイ沖縄経済文化交流センターで日本語教育の現場を訪問(レッドバード提供)