話は、じっくり聞けると面白い。今回の新型コロナウイルスの影響で、ゆっくりと取材できる機会は、格段に減った。選手や球団関係者と、顔を合わす機会も減った。このご時世、もちろん仕方のないことだ。現在は、代表取材の形で、時間も短めに。遠方にいる相手とは画面を通じたオンライン取材で。現実的に足を運んで「声を聞く」ことが減ってしまった。さらに、対話しながらだったこれまでの違い、一問一答が多くなった。

読む人に面白い、興味深い! と思ってもらえる「隠れたすてき」を運ぶこと。その1球に懸ける選手の熱い思い、舞台裏を、読者に届けること。それが、新聞記者の仕事だと思って、就職活動をしたのは5年前だった。

今、数少ない対面取材で「楽しい」と思わせる人がいる。オリックス中嶋聡監督(51)だ。19年に2軍監督としてオリックスへ。昨季途中から監督代行を任され、今季から監督に就任した。「育成&勝利」をテーマに「対話重視」で、選手の能力を伸ばすことを意識している。「もちろん育成の中には勝利が入ってくる。ただ育てるだけじゃない。勝つことで覚えていくことが必ずある。それも含めて育成。選手を育てるには負けてもいいとか、そういうのじゃない。勝つためにどうするのか。それを考えていく」。プロの世界、結果が全て。勝敗こそが、選手の今後を左右する。

オリックスは今季からコーチに「1軍」や「2軍」の肩書はない。「ある程度どこを任せるか、伝えてはある」と指揮官は説明するように、役割は分担されている。ただ、選手はシーズン中、1、2軍を行き来する。その際に、1軍と2軍の首脳陣の見解が異なると、選手は困惑してしまう。1軍担当のコーチが2軍を視察したり、2軍担当のコーチが1軍ベンチに進言しやすくなるなど、「個」を大切にした環境作りに配慮した。

首脳陣だけでない。今春の宮崎キャンプは「3班制」を敷いた。A、B班は2月1日から宮崎へ。主に体作りやリハビリを行うC班は、大阪・舞洲で練習する。「(1、2軍の)入れ替えという概念ではない。A、Bでやる。ごちゃ混ぜだと思ってくれていい。内野も、どの組み合わせがいいか。外野手だってそうだと思う」。二遊間の連係プレーや、外野手の声の掛け合い…。長いシーズンを見越してチームのコミュニケーション向上を図ったシステムだった。

楽しい話は続く。9日からスタートした新人合同自主トレでのこと。ドラフト1位の山下舜平大投手(18=福岡大大濠)のキャッチボール姿についてだった。「(身長189センチと)大きいからダルビッシュだとか、大谷翔平だとか…。そういうのじゃない。(タイプは違えど)良いものを持ってる。彼(ダルビッシュ)の場合はちょっと特殊だった。どっちかというと変化球が好きで、だんだんスピードが上がっていった。(山下はカーブのみで)逆パターンなのかもしれない」。中嶋監督が日本ハムに在籍時に出会った「メジャー級」の名前が飛び出した。山下は高校では直球とカーブの2球種のみで生きてきた。プロでは球種を増やし、投球の幅を出す準備をしている段階だ。

中嶋監督の現役生活29年はNPB最長。一般の私たちには経験できない「プロの世界」を、ちらっと見せてくれるから、夢がある。もっと、じっくりと、話を聞いてみたい。そんな楽しい世の中を、心から願いたい。【オリックス担当 真柴健】