今年の広島春季キャンプの特守は、メンバーの顔ぶれが例年と違う。昨春までは若手中心。課題克服の意味合いが強かった。今年は守備固めとして起用される守備力の高い上本、曽根の2選手が指名される頻度が増えた。昨年末の就任会見で2人に代走と守備固めのスペシャリストになることを期待した河田ヘッドコーチは「今のお前らには守備コーチが自信を持って“あいつで行きましょう”とは言えない」と手厳しい。求めるレベルの高さが特守の数に表れ、ノックの嵐が2人に浴びせられている。

泥だらけの2人の姿に、割に合わないポジションだと感じてしまう。レギュラーほど注目されることもなければ、年俸が大きく上がることもない。そして、できて当たり前と思われている。ミスをするスポーツといわれる野球界で、打率10割の打者はいないし、防御率0・00の投手もいない。だが、守備固めには「守備率10割」が求められる。ミスが許されない。映像で見れば簡単に見える打球も、揺れていたり、不規則にバウンドしていることもある。出番は僅差の試合終盤。1プレーで戦犯扱いされることもある。これほど「ハイリスクローリターン」のポジションはない。

広島の「0」上本と「00」曽根はミスを「ゼロ」にするため、沖縄で汗を流す。守り慣れた二遊間のほか、三塁でも特守を受ける。二遊間と三塁では、打者との距離、打球の強さが違う。足の使い方も変わる。上本は「三塁は難しい」と吐露するが、与えられた役割をこなすのが仕事。「レギュラーを取れなかったのは自分ですから」と上本は受け入れ、曽根も「うまくなるしかない」と前を向く。今春は二遊間に三塁、左翼、中堅、右翼を守り、25日にはそろって捕手にも挑戦した。143試合を戦う準備の春季キャンプでは、1球に涙を流さないために流す汗もある。【広島担当=前原淳】