興奮を抑え、おもむろに口を開いた姿が印象的だった。6月5日の巨人戦。決勝弾を放った日本ハム王柏融はヒーローインタビューの最後、神妙な顔つきに変わった。「この場を借りて、日本に感謝をしないといけないことがあります」。コロナ禍が拡大する故郷台湾へ、日本政府が無償提供したワクチンに対しての感謝の思いを、マイク越しに伝えた。
昨年3月。新型コロナウイルスが猛威を振るい始め、シーズン開幕が遅れた。王柏融は台湾の家族とのグループラインで、ほぼ毎日連絡を取り合い、日台の状況を確認し合った。「家族も日本の状況を、すごく気にしていたし、こちらも台湾がどういう状況になっているか気になる」。故郷を離れて戦う中、遠ざかっていた開幕とともに、家族のことが気掛かりでいた。
自然豊かな台湾南部の屏東(ピントン)市で3人兄姉の末っ子として、生まれ育った。5人家族で、野球を含めてスポーツに励んでいたのは王柏融だけ。「お兄ちゃんとお姉ちゃんは室内にいて、自分はすごく外で遊び回ってアクティブだった」と振り返る。活発だった少年は、やがて台湾球界で「大王」と呼ばれるまでになる。「まさか日本でもプロになるとは、両親はすごくビックリしていた」と目尻を細めて回顧した。
来日3年がたち、心の安定が結果につながってきた。野球を始めた小学5年の時から「何とかポジティブに考えて、嫌なことの後にはプラスになって返ってくる」と精神的な強さが、好パフォーマンス発揮への軸だと分かっていた。来日当初は思うように結果が出ず、自分を見失いかけたこともあったという。未曽有のウイルスに立ち向かう日本、そして台湾へ。今年は前向きに戦う姿で、勇気を与えている。
来日最多4本塁打目のヒーローインタビューの最後は、こう結んだ。「日本と台湾だけじゃなくて、地球の全ての国が1日も早くコロナが収まりますように祈ります」。切なる願いを力に変えて、王柏融は苦境に立ち向かう。【日本ハム 田中彩友美】




