<ロッテ3-2日本ハム>◇24日◇ZOZOマリン

ロッテ田村龍弘捕手(27)が先制適時打を放ったネット速報を、習志野市・谷津干潟を過ぎたあたりの歩道で見た。担当記者2年目にして初めて、思わず「よしっ」と声に出してしまった。この日に田村か、とゾクッとした。

ロッテ取材を始めて、すぐにコロナ禍に見舞われた。20年2月にファンサービス自粛が発表され、ほぼ同時に報道陣の取材環境も変化した。感染防止のためには当然のことだ。

寂しさはある。ファン同様、報道陣も選手たちと物理的、精神的に距離ができた。今春、キャンプイン直前の石垣島自主トレ。田村は「これ、めっちゃうまいで」とわざわざ報道陣にタコライスを差し入れしてくれた。その気持ちがとてもうれしかった。

正しくは“タムライス”という。石垣島の飲食店「沖縄居酒家 石垣島」の看板メニューの1つだ。コロナ禍以前には、田村も訪れたことがあるという。夫と店を切り盛りする池間真裕子さんは「フレンドリー、動じない、優しい」と田村の人柄を懐かしむ。

池間さんは、沖縄を代表する伝統的染色技法の「紅型(びんがた)」の人気作家でもある。私もその紅型マスクを購入し、帰京後にたまに使っていた。

あれから8カ月。ロッテは優勝マジックが点灯し、51年ぶりの勝率1位でのリーグ優勝へ戦う。担当2年目。昔のロッテは知らない。ならば聞いてみよう、感じてみようと、歩くことにした。旧本拠地の川崎球場から、51年前に優勝した東京スタジアム跡地を経由して、ZOZOマリンまでの約60キロを。

おかげさまでツイッターのフォロワーが1万人を超えた。「道中でもし良かったら、あなたとロッテの思い出、お聞かせいただけませんか?」とつぶやいた。とはいえ、私の顔など知られているはずもない。池間さん作のカラフルな紅型マスクを目印にした。2日間に分けて歩くこと計15時間40分、神奈川、東京、千葉と20人以上のロッテファンに声をかけていただいた。

お聞きした物語の数々は、ここでは控える。それぞれとは5分も話していないのに、宝物のような話ばかりで何度も胸を打たれた。ロッテファンのことを何も知らず「12球団で一番熱い」と定型句で書いていた。ひと言で済ませてはいけないほど、十人十色の人生物語があった。51年ぶりの優勝とはそういうことなのだと、痛感した。

ZOZOマリンに到着した直後にレアードが決勝弾を放ち、マジック3になった。残り4試合で全てが決まる。田村と縁ある南国のマスクを着けて歴史を感じた日に、田村がヒーローになった。こういう流れも「何かある」と感じさせられる。コロナ禍で距離はあっても、ファンの思いは選手に届く。私も、託された多くの宝物を“その時”にこそ世に出したい。【ロッテ担当 金子真仁】