DeNAの捕手は今季、1軍で6人がマスクをかぶった。その中で3試合13イニングと少ないが、チームで唯一、無失点で終わったのが高卒プロ3年目の益子京右捕手(20)だ。プロ初出場となった10月23日の中日戦(横浜)では、東克樹投手とバッテリーを組んで8回無失点。後を継いだ引退試合の武藤祐太投手、シャッケルフォード投手も無失点で、初出場ながら完封に導いた。

これほど完璧な捕手デビューは珍しい。プロ初出場の試合で完封に導いた捕手は、球界全体でも2007年(平19)7月7日の川本良平(ヤクルト)以来14年ぶり。DeNAでは2012年(平24)7月18日ヤクルト戦で高城俊人が6回までマスクをかぶっていた例はあるが、フル出場でのデビュー戦完封捕手は、球団史上初という快挙だった。

試合では、堂々とした様子に見えた。三浦大輔監督は「練習から見ていて、もっとバタバタするかと思っていたが、落ち着いていた。コンビネーションも、カーブを要所要所で使っていた」と評価した。球速が最も遅いカーブを使うのは勇気がいるが、要所で挟むと打者を惑わせる。とても初出場とは思えない、味のあるリードをしていた。

東は2回以降、8回まで打者21人をパーフェクトに抑えた。益子のリードには「僕の球筋、球種、配球を理解してくれていたので、すんなり試合に入れた。益子がリードしてくれて、イニング間もコミュニケーションを取れて打者に対応できた」と答えた。東の「リードしてくれた」との言葉を伝えると、益子はかぶりを振った。「決まり文句みたいなものです」と謙遜。さらに「僕はあんまり考えなくても、東さんが良かったので。壁になっていた感じです」と先輩を立てた。野球に詳しくない方のために説明すると、「壁」とは受け止めるだけの役割だった、という意味だ。

益子は謙虚な言葉を重ねたが、本当は入念に打ち合わせた末のリードだった。「『東さんはチェンジアップ』というイメージが強いと思うので。1巡目は隠していこうみたいな。2回からは風もありましたし、ライト方向にホームランはないなと思ったので、左打者にも思い切って攻めることができた」。初回は直球とスライダー、カットボールで攻めた。チェンジアップを封印した分、1死満塁とピンチを迎えたが、踏ん張った。2回以降はチェンジアップとカーブを交えて、1人も走者を許さず、6三振を奪った。

試合中の落ち着きとは裏腹に、試合前は極度の緊張に襲われていたという。「顔が真っ青で。みんなに『どうした』と声をかけられて。それでも緊張がほぐれなかった。早く時間たってくれ、みたいな。それでも時間が全然たたなくて。(時計を見直しても)2分ぐらいしかたってなくて」。立て板に水といった口調で記者を笑わせながら、身ぶり手ぶりを交えて説明する様子は、頭の回転が速いことを感じさせた。

プロでの目標は「母親を楽させる」「いい家を買ってあげたい」だ。母子家庭に育ち、小学生時代には一緒に練習もしてくれた、母恵子さんのためにという思いは強い。最高のプロデビューを飾っただけに、来季以降の飛躍が楽しみだ。いつの日か、栃木に大きな家を建ててもらいたい。【DeNA担当=斎藤直樹】