言葉が人を動かすことはよくあることだろう。宮崎・日南の春季キャンプでは1軍当落線上にいた広島遠藤淳志投手(22)は、オープン戦8回連続無失点と、開幕1軍入りを決定づけている。1次キャンプから変わり身を見せたきっかけは、ある言葉がなくなったことにあるように感じる。

春季キャンプのブルペンには現役捕手に加え、ブルペン捕手が並び「ナイスボール!」の声がよく響く。1次キャンプの段階では、球の強さや回転が良ければ「ナイスボール」の声が飛んでいた。だが、遠藤の投じた高めの真っすぐに「ナイスボール」という声に、佐々岡監督は眉をひそめた。

「まだこの時期だけど、(大瀬良)大地や森下とは違う。遠藤は同じことを繰り返しているのだから、この時期から(高低を)意識しないといけない。あのコースは“ナイスボールではない”と、認識するところから始めないと」

球を受ける捕手に意図を伝え、そこからはしばらくミット音だけが響く投球が続いた。

沖縄2次キャンプではブルペンで球を受けた会沢が、ダミーの打者を立たせて実戦をより意識させた。投球練習から「ナイスボール!」の声が増えるとともに、投球内容が上向き、実戦に入っても好投を続ける。

好結果を残しても、指揮官から開幕ローテ内定の言葉はない。延長12回となる今季、佐々岡監督は3連覇時に九里やアドゥワが担った第2先発を重要なポジションと感じている。当確ランプをともさないのは期待の表れでもある。

言葉はかけるだけでなく、かけないことでメッセージとなることもある。【広島担当 前原淳】