桜咲くマツダスタジアムで新たな門出を迎えたのは、新人選手だけではない。広島球団に入社した長村香澄さん(22)は球団初の女性グラウンドキーパーとして、社会人1年目をスタートさせている。

大学卒業後の進路に教育公務員や地方公務員を考えながら、就職活動として唯一、入社試験を受けたのが、広島東洋カープだった。「野球が好き。道具、グラウンドも含めて野球が好き。球団職員になれるのなら、グラウンドに立ちたい」。これまで男性しかいない部署、グラウンドの整備を主な業務とする施設運営部を希望した。

「無理だと思っていました。ちょっと期待を込めて言った一言だったんです」といちるの望みが現実のものとなった。続けてきた地方公務員受験の勉強をやめ、迷わず芝と土の上の職場に飛び込んだ。

3歳の頃に見た光景が今でも忘れられない。「旧広島市民球場に行ったとき、目の前に広がったグラウンドに感動したんです」。その日から自然と父とキャッチボールをするようになり、小学生になれば打撃の連続写真だけをまとめた本を熟読するなど、野球にのめり込んだ。当時はまだ女子野球が盛んではなかったこともあり、中学からソフトボールに熱中。安田女子では全国大会に進み、武庫川女子大を卒業するまで白球を追いかけた。「きっかけはカープでした」。夢を与えてくれた球団との縁が、今年再び結ばれた。

グラウンドキーパーは「習うより慣れよ」の世界という。石原裕紀施設運営部次長(40)は、積極的に業務経験を積ませる教育方針。新人グラウンドキーパーに、マウンドの整備を任せた。最終的な仕上げと調整は次長自ら行うものの「のみ込みは早い」と目を細める。入社当初は驚きと不安があったと認めつつ、それ以上に期待感があったという。「女性の視点から見た気づきもあると思うんです。今までになかったことなので。それはすごく楽しみ。だから、何かあればどんどん言ってほしいと伝えています」。働きぶりから、当初感じた不安もすぐになくなっていた。

3キロ超の道具でマウンドの土を固め、降雨に備えて敷くシートも軽くはない。ナイター試合後の整備に、試合がない日も次の試合に向けた準備がある。まだ4月というのに、広島には刺すような日差しが注ぐ。そんな日々にも「これがしたかったんだと。毎日が楽しい」と日差しに負けないまぶしい笑顔を見せる。はつらつとプレーする新人選手のように、瞳を輝かせる新人がもう1人、マツダスタジアムのグラウンドにいる。【広島担当=前原淳】

マツダスタジアムのグラウンドの整備や練習の手伝いなどを行う広島東洋カープ施設運営部マツダスタジアム課の長村香澄さん(撮影・加藤孝規)
マツダスタジアムのグラウンドの整備や練習の手伝いなどを行う広島東洋カープ施設運営部マツダスタジアム課の長村香澄さん(撮影・加藤孝規)
マツダスタジアムのマウンドの整備を行う広島東洋カープ施設運営部マツダスタジアム課の長村香澄さん(撮影・加藤孝規)
マツダスタジアムのマウンドの整備を行う広島東洋カープ施設運営部マツダスタジアム課の長村香澄さん(撮影・加藤孝規)
マツダスタジアムのマウンドの整備を行う広島東洋カープ施設運営部マツダスタジアム課の長村香澄さん(撮影・加藤孝規)
マツダスタジアムのマウンドの整備を行う広島東洋カープ施設運営部マツダスタジアム課の長村香澄さん(撮影・加藤孝規)
マツダスタジアムのマウンドの整備を行う広島東洋カープ施設運営部マツダスタジアム課の長村香澄さん(撮影・加藤孝規)
マツダスタジアムのマウンドの整備を行う広島東洋カープ施設運営部マツダスタジアム課の長村香澄さん(撮影・加藤孝規)
マツダスタジアムのマウンドの整備を行う広島東洋カープ施設運営部マツダスタジアム課の長村香澄さん(撮影・加藤孝規)
マツダスタジアムのマウンドの整備を行う広島東洋カープ施設運営部マツダスタジアム課の長村香澄さん(撮影・加藤孝規)