11月に彼の話を聞くのが、何だか楽しみになっている。

夕暮れ間際のZOZOマリンの記者会見場に「すみません、遅くまで」と入ってきた。ロッテ江村直也捕手(30)は優しい表情をしている。16日、ダウン査定での契約更改を済ませ、プロ12年目を終えた。

1軍はおろか、2軍でも出場が減った。そんな自分を一切飾らない。「率直に情けないですよね。僕は若い時にいっぱいチャンスをもらっているので、実際のところ、そこでつかめなかった僕が悪いですし」という達観ぶりだ。

自虐で終わらないのがプロフェッショナル。「試合に出なくても現地でやることはありますし、試合途中から行けと言われても行ける準備が絶対あると思うので。そこは欠かさず毎試合やっていました。いつ行けと言われてもいいように意識してやっていました」。当たり前のようでも、万人ができることではない。こういう一生懸命さを愛する江村ファンは多い。

ムードメーカーでも知られる。20日のファン感謝デーでは毒舌解説の先輩角中から「江村って、大阪桐蔭なんすか?」といじられ、会場がわいた。空気を変えられる選手。江村が1軍になかなかいなかった、この3年間。もともとおとなしめの選手が多く、ロッテベンチは静かなことが多かったように思う。

「そこら辺はまぁね…自分がベンチにいたらもちろん声は出したり、アホやったりということはありましたけど。やっぱり野球選手は試合に出てなんぼなので。声出すのはもちろん大事なことだと思います」

試合に出てなんぼ-。1度、ロッテ浦和球場でホームベース周辺の土を入れ替えていた時に、江村も立ち会っていた場面を見た。直後にそのことを尋ねると「プロ野球選手は、1軍で試合に出てなんぼなので」と真顔で答えられた。大阪桐蔭から入団し12年。「何げないひと言がすごく心に響いたり。僕もいろいろ投手の人に声掛けられて救われたことがいっぱいあったんで」。明るいノリと、愚直なまでの真剣さ。多くの経験が江村直也という捕手を形成したのだろう。

12年目が終わった。

「やっぱ、すごいですよね。一瞬で、すぐ12年たったという感じですよね。元々伊東さんに使っていただいて、そこからあれでしたけど。年々試合に出られなくなっているということはあるので。来年もうひと花咲かせたいですよね」

色紙にも「花咲かす」と書いて、ダウン更改なのに自分から白い歯を見せた江村は、最後まで報道陣の存在を気にかけてくれる。

「毎年言ってますけど、来年もこの席で会見できるように頑張りますね」

そう言って帰っていった。あ、そういえば…と1年前に会見場に入ってきた時のことを思い出した。

「寒い中、皆さん、お疲れさまです。ありますか、質問。えっ、あります? 本当っすか!?」

花咲かせた顔が楽しみだ。【ロッテ担当 金子真仁】