球春を告げる2・1キャンプイン。グラウンドに響く打球音に心が高鳴って来る。3年ぶりのV奪回を目指すソフトバンクで、最も「この日」を心待ちにしていたのは、王球団会長ではなかったか。ジャージー姿に球団帽をかぶり、手にはバットを持ってアイビースタジアムのグラウンドに元気な姿を見せた。

宮崎入りした前日(1月31日)の全体ミーティングでは約15分間の訓示。「10日間で野球がやれる状態になること」と訴え、実戦的なメニューとなる第3クールからは「勝負ということを常に意識して取り組んで欲しい」と言った。この投手に勝つには、この打者を抑えるには…。「練習」ではなく、とにかく徹底して「勝負」を意識しろ、と繰り返した。

あの悔しさは、王会長の野球人生でも初体験だった。昨年は優勝マジックを「1」としながら、最終戦で敗戦。同率で並んだオリックスにペナントを奪われた。現役時代はV9も達成した王会長だが、予想もしなかった幕切れに悔しさを拭いさることはできなかった。

言葉は熱を帯びた。「勝負というのは表か裏なんだよ。勝負、勝負、勝負に勝つ! そのことだけを考えてほしいんだよ」。藤本監督以下、A組、B組の全選手、コーチ、スタッフも息をのんで王会長の訓示に聞き入った。昨秋のキャンプ。やはり前日ミーティングで王会長は熱く語った。約25分ものスピーチ。だが、翌日に新型コロナに罹患(りかん)し、リスタートへ向けたキャンプを見守ることはできなかった。

有終の秋へ向け、長いシーズンが始まる。キャンプはその序章だが、戦う前から戦いは始まっている―。そう王会長はチームに言いたかったはずだ。詩人・高村光太郎の「道程(どうてい)」の一節も持ち出し「誰かが言ったけど『自分の前に道はない。自分の歩いた後に道はできる』とね。誰でもない自分の道。自分で開拓して切り開かないと」。最後は「今年は(3年ぶりVで)3倍返ししような!」と締めくくった。【ソフトバンク担当 佐竹英治】