「成田空港に着くと田舎の各駅停車が止まる駅か、バスの終点みたいな感じがします」(日経ビジネス記事引用)。日本最大の国際空港をこう表現したのは、ノンフィクション作家の高野秀行氏だ。確かにシンガポールのチャンギ国際空港や、ドバイ国際空港などアジアのハブ空港を訪れると、その規模と華やかさに圧倒され、我が国への憂慮を禁じ得ない。

日本は2010年、国内総生産(GDP)で中国に抜かれ世界第3位に。昨今は円安が進み、コロナ禍が明けた今、日本の安さを求め海外からインバウンド客が詰め寄せている。日本人がブランド品を求めて海外を飛び回っていた時代は、今は昔だ。

東京で生活していても、どこか世界に取り残されつつあるという不安がまとわりつく。東京の文化が集積する青山地域にある「明治神宮外苑」の再開発が反対運動に揺れているのを見ると、複雑な心境にもなる。

8年前、同地域で同じような問題が起きた。英建築家の故ザハ・ハディド氏が設計を手がけた新国立競技場の整備計画が、国論を二分する騒動となった。計画当初は約1300億円と試算されていた整備費が3000億円超にまで膨れ上がり、メディアを中心に批判の渦が巻いた。結局、15年7月17日に安倍晋三首相(当時)が白紙撤回を決定した。

当時、私はこの問題の取材に走り回っていた。内閣官房の担当官僚や日本スポーツ振興センター(JSC)の担当者を連日、夜討ち取材し、ザハ事務所の担当者に何度も会って話を聞いた。

整備費高騰の原因にもなった開閉式の屋根だが、一方で、夢のある計画でもあった。冷暖房を完備した全天候型の施設で、スポーツや音楽イベントだけでなく東京モーターショーのような展示会や国際会議を招致する、単なるスタジアムではない、世界に例を見ないコンベンションセンターの建設を目指していた。

白紙撤回後に整備費を約1570億円まで圧縮して完成した隈研吾氏設計による現在の国立競技場は、屋根が観客席上部のみとなり、スタジアム側面も吹き抜けに。もちろん冷暖房はないため残念ながら夏の暑さと冬の寒さを防げず、荒天時の使用も制限される施設となった。ランニングコストも毎年10億~20億円規模と大きく、東京五輪・パラリンピック後の後利用にも苦戦している。

神宮外苑の再開発も同じ轍(てつ)を踏んで欲しくない。現在の論争が負の遺産ではなく、良好なレガシーを生み出す議論になればと願う。今季からヤクルト担当をしているからこそ思う。新神宮球場は本当に屋根なしで大丈夫なのだろうか、と。

国連のグテーレス事務総長が「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」との見解を示すほど危険な暑さが続く夏に、プロ選手もアマチュア選手も炎天下で野球に取り組んでいる。「この暑さは危険ですよ」「新球場は本当に屋根はつかないんですか?」と本音を漏らす選手がいるのも事実だ。

全天候型の施設となれば事業の幅が広がり収益性は高まる。当然、整備費とランニングコストは上がるが、レガシーとしての価値は高まるのではないか。歴史的にお天道様のもとで野球を開催してきた神宮球場にとって、開閉式の屋根という選択肢だってある。

もちろん土地の広さ、事業費などさまざまな問題で全天候型の計画は困難だったのだろう。それでも新神宮球場の詳細な設計はこれからだと「神宮外苑まちづくり」の資料にある。地球規模で気候が変わった今、選手の安全性やスタジアム事業の大きな飛躍に向けて、検討の余地は残っていないのか。

「世界に誇るスポーツクラスター(集積地)」を目指すという神宮外苑。本当に世界と勝負できるスポーツクラスターを実現することができるのだろうか。

8年前、私も世間の風潮に流され、新国立競技場の整備費高騰問題にばかり傾倒し、東京五輪後の実用化についての議論を脇に置いた反省点がある。歴史と自然環境を守ることは大事だし、開発が全てではないという意見も分かるが「ホワイトエレファント(無用の長物)」を生み出してしまうことが、最も避けなければならないことだ。

高野氏が表現したような、終着駅としての日本にはなってほしくない。日本が先頭集団を走りスポーツの力で世界に貢献できる、その発信地としての神宮外苑を期待している。【ヤクルト担当 三須一紀】

シンガポールのチャンギ国際空港内にあるレジャー施設&ショッピングモール「ジュエル」。建物の中に高さ40メートルの人口の滝と森が整備されている(撮影・三須一紀)
シンガポールのチャンギ国際空港内にあるレジャー施設&ショッピングモール「ジュエル」。建物の中に高さ40メートルの人口の滝と森が整備されている(撮影・三須一紀)
シンガポールのチャンギ国際空港内にあるレジャー施設&ショッピングモール「ジュエル」。10階建ての大型施設には何層にもアパレル店やお土産店、レストランがひしめき合っている(撮影・三須一紀)
シンガポールのチャンギ国際空港内にあるレジャー施設&ショッピングモール「ジュエル」。10階建ての大型施設には何層にもアパレル店やお土産店、レストランがひしめき合っている(撮影・三須一紀)
シンガポールのチャンギ国際空港内にあるレジャー施設&ショッピングモール「ジュエル」。建物の中に高さ40メートルの人口の滝と森が整備されている(撮影・三須一紀)
シンガポールのチャンギ国際空港内にあるレジャー施設&ショッピングモール「ジュエル」。建物の中に高さ40メートルの人口の滝と森が整備されている(撮影・三須一紀)