23日、マツダスタジアムで行われた「カープファン感謝デー2023」では、これまでにない空気を感じた。4年ぶりにマツダスタジアムで開催され、有観客で行われたことだけが理由ではなかった。そう感じたのは、FAでの移籍が決まっていた西川龍馬外野手(28)への反応だった。

新井監督(中央)ら広島ナインと記念写真に納まる西川(前列右)(撮影・加藤孝規)
新井監督(中央)ら広島ナインと記念写真に納まる西川(前列右)(撮影・加藤孝規)

これまでも移籍が決まっていた選手たちがファン感謝デーに参加したことはあった。ただ、ここまで温かく見送られたことはなかったように感じられた。移籍先がカープ球団から初めてパ・リーグだったことは大きな理由だったかもしれない。

ただ、それだけでもない気もする。

まずは新井監督の演出力にある。ファン感謝デー最後に「監督あいさつ」を前に、マイクを西川に譲った。事前に本人と話し、あいさつする意思を確認。いつもクールなバットマンが最後に発した熱い言葉に指揮官も思わず「グッときた」。直後に「来シーズンからチームは違いますけども、彼の中で赤いカープの血はいつまでも流れていると思います。寂しいですけど、頑張って来いよ」と送り出した。就任時から“家族”と言い続けてきた温かい空気感は、選手の移籍時にも変わらなかった。

広島ファン感謝デー FA移籍のあいさつをする西川(撮影・加藤孝規)
広島ファン感謝デー FA移籍のあいさつをする西川(撮影・加藤孝規)

また、西川自身の人柄もあるだろう。最後のあいさつでは「ここまでFAを取れる選手になったのも、オーナーをはじめカープ球団、大好きな先輩、後輩、裏方の皆さん、そしていつも応援してくれるファンの皆さんのおかげです」と感謝の言葉を並べた。新井監督も「律義で、昔かたぎなところがある男」と認める。後輩宇草が歌唱力を競う企画で、オリックスの応援歌をマツダスタジアムに響かせたことも珍しいことだった。

鈴木球団本部長は「時代もあるのか」とも言った。今はひとつの会社で働き続ける時代ではなく、働き方も変わりつつある。ただ、スポーツ界では今もなお応援してきた選手の移籍は受け入れがたいもの。いずれは変わっていくのかもしれないし、変わらないかもしれない。それだけに今回、マツダスタジアムで感じた球団と現場、選手、ファンの四位一体によってつくり出された空気は特別なものだった。あらためて、そう感じる。【広島担当=前原淳】

広島ファン感謝デー FA移籍のあいさつをした西川(右)をねぎらう新井監督(撮影・加藤孝規)
広島ファン感謝デー FA移籍のあいさつをした西川(右)をねぎらう新井監督(撮影・加藤孝規)