分かっていても打てなかった。準決勝で星稜に敗れた中京学院大中京・藤田健斗捕手(3年)は「山瀬捕手はスライダーで来るとは思ってました。分かってたのに」と悔いた。初回2死一塁、奥川-山瀬のバッテリーにスライダーを4球続けられた。ファウルで追い込まれ、ボールになる球に手が出て空振り三振。4番の仕事をできなかった。

チーム方針は「追い込まれたら奥川のスライダーは打てない。それまでに甘く来た直球を打つ」だった。ただ、藤田は準々決勝の作新学院戦で直球を2安打。「相手も研究している。自分でも、そうすると思う」と、捕手らしく極端な変化球攻めを分析した。「カウント球のスライダーは見逃せても…想像以上でした」と認めるしかなかった。最初は「自分たちの野球をやり尽くしました」。すぐ言葉に詰まった。「優勝したかった」と声を震わせた。

苦い経験が藤田を大きくしてきた。4月の代表1次候補合宿。大船渡・佐々木の球を受けきれなかった。「ついていけませんでした。初めてです」。フォークやスライダーを止めにいこうとした時には、体に当てていた。だが、そこで終わらない。「ワンバウンド捕球は、もっと低く構えないと」と学び、股関節の柔軟性を上げた。甲子園での4試合。ワンバウンドを止められず暴投にしたのは、1回だけだった。

失敗を糧に。主将で4番で捕手を務める藤田の姿勢が、チームの軌跡と重なった。終盤の逆転劇を続け、甲子園を沸かせたが、初の4強は手痛い敗戦から成り上がった結果だ。勝てばセンバツ出場が濃厚だった昨秋の東海大会準決勝。東邦に9回に5点リードを追いつかれ、延長でサヨナラ負け。1球への集中力を高め、この夏につなげた。

奥川に敗れた。試合後に発表されたU18代表からも漏れた。「いい経験。野球を続けていく上で、ああいう投手と対戦しないと」と受け止めた。進路は「プロ1本です」。再び成長曲線を描く。【古川真弥】