将来の米国野球殿堂入りが確実視されるエンゼルスのアルバート・プホルス内野手(39)のバットが、世界で拡大を続けている。04年に創設されたバットメーカー「マルッチ」は現在、メジャーリーグのシェアNO・1。日本、韓国などアジア圏にも進出している。10年足らずでいかにして地位を築いたか。素材、重さ、日本の型との違いなど、強みに迫った。

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マルッチ社のバットを使用する現役メジャーリーガーで、こだわりが最も強いといわれる打者が、エンゼルスのアルバート・プホルス内野手(39)だ。「握った感覚で、試合で使えるものかどうか分かる。バットの先の方をたたいて、音の違いもチェックするね」。一般的には低い音より高い音の方がバットの中身に木が凝縮されており、良質のものだという。

カージナルス戦で本塁打を放つエンゼルスのプホルス
カージナルス戦で本塁打を放つエンゼルスのプホルス

プホルスは06年からマルッチを愛用し、今では3つのモデルがある。姓名の頭文字と背番号にちなみ、モデル名は「AP5」。長さ86・5センチ、重さ901グラムか907グラム。まれに921グラムのタイプも使用する。パワーヒッタータイプの西武中村は890グラムで、プホルスの方がやや重い。

芯の太さは64・4ミリ。メジャーリーグの規定で定められている最大約66・4ミリに近く、マルッチを使うメジャー選手の平均63・6ミリと比べても、比較的大きな芯が特長だ。

19年シーズン「AP5」は104人ものメジャー選手からオーダーされ、元DeNAでアストロズに所属するグリエルも愛用していた。実際には芯の太さがそれぞれ異なる「AP5P」、「AP5L」の3種あるが、詳細な違いは非公開。他選手や一般顧客がオーダーする際の複雑化を避けるため「AP5」を基本形として統一している。ただ、担当者によれば「芯のポイントが違う。プホルス自身が、その日の状態や、相手投手によって使い分けている」という。

新調したバットをクラブハウスで入念にチェックするプホルス。一番のこだわりは「バットの先端から根本までのバランス」という。バットを握り、剣道の面打ちのようなしぐさをする。「ちょっと重いな」と、わずかな違いを瞬時に判別できる。それでも「99%が試合で使用できる準備ができていた」と質の安定性に信頼を寄せている。

過去に日本人メジャーリーガーがマルッチ製を使用したことはない。それだけに担当者のオルソ氏は「日本人にも使ってもらいたい」と期待を寄せる。根底には純粋な思いがある。「例えば筒香のような選手がどれだけ大事な存在か、我々も理解している。それはマルッチにとってだけでなくて、野球界にとってね」。商売道具であるバットの質を高め、成功を後押しする。それが世界の野球の発展につながると信じ、マルッチは歩みを進めている。(この項おわり)

【斎藤庸裕】

マルッチ製を愛用するプホルスの「AP5」モデル型バット(同社ホームページより)
マルッチ製を愛用するプホルスの「AP5」モデル型バット(同社ホームページより)

◆大谷とバット談議 プホルスは昨季、試合前の打撃練習で同僚の大谷とバットを交換し、なにやら意見を交わしていた。プホルスが大谷のアシックス社製のバットを借りて、フリー打撃を行ったこともあった。2年目を終えた大谷を「いろいろ順応して素晴らしかった」と褒め「練習用のケージの中では本当によくバットを振っているね。脱帽するよ」。20年シーズンの二刀流復帰に大きな期待を寄せている。

ドミニカ共和国出身で、大谷と同様、異国で戦う。異文化にも理解を示し、日本メディアとすれ違うと顔をクイッと下げて会釈する。お辞儀だ。「教えてもらったよ。尊敬を表すって。大谷が(チームに)来てから日本の伝統を学んだよ」と得意気に明かした。野球外では自閉症患者の支援や人身売買撲滅キャンペーンに協力するなど、社会貢献活動にも精力的。「野球ができる才能を神様が与えてくれた。それをお返しするんだ」という思いがある。

マリナーズでプレーしたイチロー氏が01年、ア・リーグで新人王を獲得し、同年、カージナルスのプホルスがナ・リーグで新人王となった。日本人と縁があり、日本への思い入れもある。「今まで機会はなかったけど、いつか美しい国の日本に行ってみたい。世界に多くの野球ファンがいることはとてもうれしいこと。応援してくれてありがとう」。剛健な体にパワーあふれる打撃とは対照的な、柔らかい笑顔で言った。