今季から楽天でプレーする涌井秀章の躍動を見て、山本昌の日本最高齢(50歳)を塗り替える可能性もあるのではと思った。ここ3年は5、7、3勝。負け数の方が多かったのだから、見事な復活と言っていい。

楽天涌井秀章(2020年8月12日撮影)
楽天涌井秀章(2020年8月12日撮影)

成績が上がらないと、世間はすぐに「水が合う、合わない」とか、うがった見方をする。プロ野球の世界でそんな理屈は通用しないと断言させてもらう。単純に勝てるか、勝てないか。勝てたら使われるし、勝てなかったら淘汰(とうた)されていくだけだ。

西武からFA移籍してきたロッテで縁があった。投手という仕事に対して非常に真面目な涌井は「過去は過去でしかない」という原則をよく分かっている。球威もキレもライオンズ時代に及ばず、思うようにボールを操れないジレンマ。FAで来たのに、思うように勝てない申し訳なさ。技術的にも精神的にも、苦悩があったと察する。

結婚し、家族が増え、トレード移籍が決まる。責任感と反骨精神がブレンドされ、好作用に働いた…感性に優れた彼にはおおいに当てはまるのだろうが、それは1つのきっかけでしかない。

最大の特徴である、独特の間合いが復調に大きく作用している。普通、いい時の間合いは「1、2の3」で投げるのだが、今年は「1、2の3、4」と、もうひと間、多いように感じる。ボールに力を宿すひと間。狙い通りに制球するひと間。打者のタイミングを狂わせるひと間。言葉で書くと簡単に読めるが「間のスポーツ」とも言い換えられる野球にあって、雌雄を決する最も重要な要素の1つが「間」なのだ。

去年、ファームで見た彼には「間」が足りないように感じた。練習では人一倍走るし、トレーニングルームでもよく練習するが、このオフは練習量とともに練習の質や方法も変化させたのだろう。今の自分を冷静に分析し、原点をさらに磨き上げたフォームに行き着いたと考えられる。

思うところに球が投げられるようになり、配球というよりも、球の交ぜ方の考え方が変わったともみている。詳しく書くのは今後の彼にとってマイナスとなるため控えるが、勝負の仕方を変えている。つまり今季の復活には、確固たる理由がある。

飛びぬけたスタミナを持ち、140球から150球は球威が落ちることなく投げられる。冒頭に挙げた最高齢投手に向け1つ条件を挙げるなら、もう1度リリーフに回って、再び先発に戻ること。選手が選べることではないが、投手としてのマンネリは防げる。12年に30セーブを挙げており、適性は十分にあるだろう。

涌井と同じように持ち場を回り、過去に素晴らしい成績を収めながら、今まさにもがいている投手がいる。(つづく)

小谷正勝氏(2019年1月18日撮影)
小谷正勝氏(2019年1月18日撮影)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算24勝27敗6セーブ、防御率3・07。79年から投手コーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団でコーチを務め、13年からロッテ。17年から昨季まで、再び巨人でコーチを務めた。