10月2日の阪神戦で、巨人の田中豊樹が投げる姿を見て「これは面白いな」と思った。

過去に2軍で投げてる試合も見たが、投球フォームが2段モーションに変わっていた。面白いと感じた理由は、かつての教え子で、DeNAの2軍監督を務める三浦大輔のフォームとそっくりだったからだ。

三浦は2段モーションの元祖である。3年目の春季キャンプで「足を2度上げてから投げてみようと思うのですが、どうでしょうか」と聞かれ、試行錯誤が始まった。テークバックからトップに来た時に、頭が背中の方に必要以上に反り返るクセが見られ、解決に頭を悩ませていた。彼の感性があの形をひらめかせた。

現役時代の三浦のフォーム(左)と2日、登板した田中豊
現役時代の三浦のフォーム(左)と2日、登板した田中豊

足の上げ方を研究した。当初、2度とも同じ高さに上げたが、同じ高さだとリラックスする「間」がなかった。1度目は低く、2度目に高く上げるように変えると、リズム、バランス、タイミングが見事に合った。軸足にしっかり体重を乗せ、推進力も無理なく、首の反り返りも解消された。

2段モーションは、体幹を中心とした体力が少し劣る人、ねじりの苦手な人でも、リズム、バランス、タイミングが取りやすくなる。推進力も、正しい方向に向かいやすくなる。三浦のような柔らかい2段モーションをマスターできれば、球持ちは良くなる。従って球種も覚えやすくなり、打者の動きもよく見えてくる。

最近、三浦ほどではないが、2段の小型のようなフォームをよく見る。ここまでメリットを挙げておいて何だが、長いイニングを投げる投手は、基本的にはオーソドックスな投法を勧める。三浦が2段モーションで注目を集め始めたころ、少年野球でまねをする子どもが増えたと聞いた。個人的には野球を始めた子に2段モーションは勧められない。

人間は欲が深い。2段モーションは見た目はあまり力感を感じず、球威をもっと上げようと力みが入り、上体の前後のブレが出やすくなる。特に三浦式の2段モーションともなると、簡単なものではない。迷って、迷って、どうしてもうまくいかなくなってから、最後の最後にトライすればいい。

投球フォームや配球、球種…技術には果てがない。考え抜けばアイデアもわいてくるし、変われるきっかけも生まれる。前回に記した巨人菅野のスライダー。三浦の2段モーションもそうだが、プロの中のプロがたどり着いた個性であり、オンリーワンのオリジナルなのだ。

小谷正勝氏(19年1月18日撮影)
小谷正勝氏(19年1月18日撮影)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算24勝27敗6セーブ、防御率3・07。79年から投手コーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団でコーチ、13年からロッテ。17年から昨季まで、再び巨人でコーチ。