<西武VS.日本ハム>◇04年プレーオフ◇西武ドーム

2004年(平16)、パ・リーグが導入したプレーオフの第1ステージ。2位西武、3位日本ハムともに1勝で迎えた、10月3日の第3戦。俺は、この試合をとても楽しみにしていた。西武ドームのネット裏席を確保していたからだ。ゆったり豪華なつくりで、他球場とは比べものにならないVIP気分満載、プロ野球ファン憧れのシートだ。普段は通り抜けることすら許されず、ただ見とれていただけのこの席が、プレーオフでは何と一般に販売されたのだ。

04年、西武ファンクラブ会員に配られた冊子と西武ドーム「オーナーズレストラン」の注文票
04年、西武ファンクラブ会員に配られた冊子と西武ドーム「オーナーズレストラン」の注文票

やっぱり西武ドームは秋が似合う。色づく狭山丘陵のさわやかな風を感じながら、「ネット裏指定席SS」と印字されたチケットを係員に示して席についた俺は、たちまち嫌な予感に取りつかれた。前の席に、日本ハムのレプリカユニホームを着た男2人が座っていたのだ。横浜ファンの30代独身、仲良し兄弟を描いた映画「間宮兄弟」をほうふつとさせる2人だった。

7000円も払って、ようやく手に入れたシートなのに、外野席のノリで騒がれたら、かなわないなぁ。予感は当たった。1回、日本ハムの4番、セギノールが3点本塁打を放つと、立ち上がって大騒ぎを始めた。5番、オバンドーが右前打で続くと、また立ち上がってハイタッチを繰り返す。たまらず「すいません。立ち上がらないでもらえますか」と声をかけると、2人は気まずそうにペコリと頭を下げて、少しおとなしくなった。

試合は3回、西武が4番カブレラの満塁弾で逆転し、5-3で9回に入った。西武は守護神、豊田清を投入。もはやこれまで、といった空気が支配する中、日本ハムは先頭の高橋信二が中前打で出塁して反撃開始。1死後、打席には途中出場の木元邦之が入る。2-2からの5球目、木元が放った打球は、日本ハムファンの歓声に送られて、右翼に向かって飛んでいく。その刹那、おとなしくなっていた前の2人が、興奮を抑えきれない様子で半身を俺の方に向けた。「立ってもいいですか」。俺の返事を待つ間もなく、両手を上げて立ち上がった。2人の背中に隠れ、打球の軌道が追えない俺は、三塁側でわき上がる歓声で、同点本塁打が右翼席に飛び込んだことを知った。

黙って怒りを抑える俺。立ち上がって大喜びする2人は、満面の笑みを浮かべながら、俺にハイタッチを求めてきた。大好きな日本ハムが同点に追いついて、うれしくてたまらない。そんな無邪気な笑顔を見たら、怒ってる自分がバカバカしくなった。苦笑しつつ、ハイタッチに応じた彼らの手には、湿り気があった。

袖振り合うも多生の縁。初秋の西武ドームで出会った彼ら。俺と同じように、憧れのネット裏席での観戦を楽しみにしていたんだろう。彼らは今も日本ハムを応援しているだろうか。(つづく)

【秋山惣一郎】