カープ一筋19年、マスク越しに見ていた景色はいつもバラ色だったわけじゃない。広島石原慶幸捕手(41)は現役生活を振り返り、苦笑いを浮かべた。「優勝もさせてもらったけど、やっぱり苦しいことばかりだったかな」。3連覇の喜びよりも、長く続いた低迷期のモノクロに似た世界が思い出されるという。

16年9月、巨人に勝利し、ナインとタッチを交わす広島石原慶
16年9月、巨人に勝利し、ナインとタッチを交わす広島石原慶

歩んだ現役生活は激動の球団史と重なる。1軍に定着した2年目の03年は低迷期のど真ん中。00年代、チーム防御率はすべて4位以下。半数の5シーズンでリーグワーストだった。女房役として「何とかチームが勝つために。そのことしか考えていなかった」と苦心する日々。厳しいヤジは背番号31にも突き刺さった。

広島石原慶の年度別成績
広島石原慶の年度別成績

現状を打ち破るためにも研さんを積むしかなかった。高いキャッチング技術で有望な若手投手を伸ばし、配球の妙によって対戦相手の打者を惑わせた。09年には日本代表の一員としてWBC優勝も味わった。10年代に入ると、チームは野村監督の下で再建され、緒方政権下で結実。いずれも扇の要を託された。

「ここまでやれたのは、周りの人たち、ファンの人たちに支えられたから。ユニホームを脱いであらためて、そう感じる」

今季本拠地最終戦、テレビのゲストとして初めて放送席から試合を見た。「本当にきれいだった。こんないいスタジアムでやれていたのかと」。まぶしい世界が広がっていた。来年から「広島テレビ」のプロ野球評論家となる。「言葉で言うのは簡単だけど、実際にやるのは難しい。選手時代に感じていたことなので、評論家となっても、選手にリスペクトを持ってやりたい。あとは捕手目線でしか語れない」。異なる視点から野球と向き合う第2の人生では、まだ見ぬ景色が広がっている。【前原淳】

今年広島を退団する選手
今年広島を退団する選手