短期決戦を勝ち抜くためには、勢いが大事になる。ヤクルト時代の野村克也監督は「一番難しいのは、どうやってチームに勢いをつけるか。『これをやれば確実に勢いがつく』ってものがない」とぼやいていた。巨人原監督も、勢いをつける方法論として「年間で何試合か、絶対に負けられない試合を設定する。その試合は、どんなことをしても勝ちにいく。そういう試合を勝つと勢いがつく」と話すように、戦い方を模索している。

ここ一番の試合に勝つことがチームの勢いにつながるなら、クライマックスシリーズ(CS)はもってこいの舞台だ。CSを戦ったチームと戦っていないチームとの勢いの差は、確実に存在する。

ソフトバンク工藤公康監督(20年11月22日撮影)
ソフトバンク工藤公康監督(20年11月22日撮影)

CSを導入してからの歴史が証明している。2004年(平16)、CS(当時の名称はプレーオフ)は、パだけで導入された。パだけで採用された3年間、日本シリーズはすべてパが制覇している(04年西武、05年ロッテ、06年日本ハム)。

CSを戦ったパが日本一になったというだけでなく、06年に1位通過(導入当時はプレーオフで勝ったチームがパの優勝)した日本ハム以外は、西武とロッテが2位進出。06年も、1勝のアドバンテージが設定されていた。ファーストステージ(当時は第1ステージ)を戦ったチームが、圧倒的に有利と認定されていたからだ。

04年、05年はゲーム差によって1勝のアドバンテージがつくことになっていた。

つまり、ファーストステージでの勝者は、ファイナルステージ(当時は第2ステージ)しか戦わないチームより勝率が高かった。07年からセでもCSが導入されたが、リーグ優勝した巨人はファイナルステージで2位から勝ち上がった中日に3連敗。パはリーグ優勝した日本ハムが日本シリーズ出場権を得たが、巨人の惨敗ぶりが注目され、翌08年からリーグ優勝したチームに1勝のアドバンテージが設けられた。

1勝のアドバンテージが設けられてからのセとパのリーグ優勝チームは、13年間(2位と3位の対戦がなかった昨季は除く)で、ともに10勝3敗。「1勝」のアドバンテージには、勝ち上がった勢いはほぼ通用しないとも言える。それでもリーグ優勝したチームは、もともと「2位チームより強い」という前提がある。勢いのメリットは否定できないだろう。

メジャーでも勢いのアドバンテージは存在する。

MLBのポストシーズン(PS)が現在のワイルドカード(WC)2チーム制になったのは12年からだが、一見不利なWCが、実際は正反対の結果になっている。

コロナ禍の昨季を除いた8シーズンでWCからの世界一達成は14年のジャイアンツと19年のナショナルズ。リーグ優勝決定シリーズまで進出したのは7チームある。

巨人原辰徳監督(20年6月10日撮影)
巨人原辰徳監督(20年6月10日撮影)

WCからPSに進出した場合、レギュラーシーズンから間隔を空けずに試合が続き、次の地区シリーズに勝ち進んでも休養十分の相手と対戦することになる。エースをすでに使っているため先発投手のマッチアップも不利で、ホームアドバンテージもない。それでも勝ち進むチームが多いため、米メディアも「勢い」「流れ」の重要性に注目している。「WCはむしろ有利。選手にとって、プレーのリズムを保持するのは重要」などの意見が出ていた。

もともとパがCSを導入したのは、消化試合を減らして興行収入を増やすためだった。興味深いのは、セより3年早く導入していたパが、ファーストステージを戦ったアドバンテージの大きさを理解していて、セがCSを導入するときに1勝のアドバンテージ制を提案していた点だ。

しかし、パのCS制度をそのまま採用するのをセが嫌がり、CS同時開催の初年度に「アドバンテージ制」を受け入れなかった。1位で通過できそうもないセ球団が、パの意見を素直に取り入れない流れも、現在の流れと似ているといっていいだろう。

セのペナントを振り返っても、昨年はCSがないにもかかわらず、独走する巨人に対してローテーションを変更してエースをぶつけていかないチームがあった。ペナントを盛り上げることがセの強化につながるが、不可解にも自軍の順位を優先させてしまった。結果的に巨人はペナント終盤に緊張感のある試合ができず、惨敗の要因のひとつに挙げられるだろう。

セは日本シリーズでパに負けない環境作りをもっと真剣に考え、努力するべきだ。交流戦でもセが勝ち越したシーズンは、09年の1度しかない。事情があったとはいえ、セがシリーズで不利な状況にならないためにどうするべきか考えていれば、CSを導入するか、せめてパと同じ流れで対戦できるようにする必要があった。次回は導入への賛否が分かれる「DH制」について、検証してみよう。(つづく)

【小島信行】