改革の年に-。智弁和歌山の中谷仁監督(41)は、昨秋、近畿大会準々決勝で敗退し今春のセンバツ出場は難しいとみるや、チーム改革に乗り出した。「僕が17年4月から智弁和歌山の指導に携わってから、ありがたいことに春も夏もずっと甲子園に出場してきたので何かを変えるには勇気が必要だった。負けたら変えられる。そう思っていました」。現在の目標は夏の甲子園出場と全国制覇。「余裕をもって取り組めるのは今しかない」とチーム運営の改革に乗り出した。

19年8月、夏の甲子園の米子東戦で笑顔を見せる智弁和歌山・中谷監督
19年8月、夏の甲子園の米子東戦で笑顔を見せる智弁和歌山・中谷監督

昨年11月23日、最後の練習試合が終わると、年内の全体練習をオフにした。練習はすべて自主練習にし、そのメニューも選手たちで作成させた。また、冬の練習期間は部長、副部長の2人の教員を土日、交代で休みをとれるようにした。

阪神、楽天、巨人で14年間、プレーした。アマチュア野球の指導者になり、その厳しい勤務状況を目の当たりにした。中谷監督は事務職員で、午後0時30分にはグラウンドに出られる。一方、教員の部長、副部長は職員朝礼に出席し1時間目から授業。他にもテスト作成や業務は山積みだ。「拘束時間が長すぎる。教員は本当に大変だなと思いました。スタッフの家族、将来を考えたら、何とかしてあげたかった」とチームを預かる監督として行動を起こした。

プロ野球界と高校野球の指導者を比べ、どう感じているのか。「結果の対価がお金なのか、子どもたちの笑顔なのかの違い。野球の目的が自分に向けられているのか、子どもたちに向けられているのか。明らかにベクトルの方向が違います」。プロは契約社会で、その対価を得るために練習、指導する。一方、学生野球は教育が目的だ。中谷監督は「僕ができなかったことを子どもたちに教え、頑張ってやってくれる。僕は給料以上のものを子どもたちからもらっている。こんな幸せなことはないですよ」と、目を輝かせた。

しかし、強豪校を預かる監督として結果は評価につながる。どうしたら良くなるのか。12月のオフ期間も、その挑戦だった。「疲弊している選手たちが、自分に合わせた適度な練習で、体を大きくしてほしかった」。チームに携わり3年、選手を見て発見があった。夏の大会後に引退した3年生が、疲れがとれ、適度な練習でそれまで蓄えていた力を引き出せるようになり成長する現象にヒントを得た。「現役選手にも取り入れてみたい」。思い切った1カ月のオフ期間も、選手の成長を考えてのことだった。

現在は「スタッフに学校の業務に充てる時間をつくる」「年間を通して選手の疲労を取りながらも何かプラスになることをさせたい」という観点から、月曜日はグラウンドでの練習は休みにした。ヨガなど他のトレーニングや速読、今後はボールペン習字などにも取り組もうとしている。

「覚悟」が中谷監督を支えている。「グラウンドの結果がすべて自分の評価。僕は覚悟を決めてきている。僕は休みは欲しいと思わない。今こうしてグラウンドにいられることが幸せですから」。

今年、1月4日に全体練習を再開。選手たちの元気な声と活気あふれるプレーにオフ期間の手応えを感じている。「でも、本当の結果は夏の結果で評価される。きれい事ばかりで勝てないとダメ。勝負にはこだわっていきたいです」。強豪校も変革の今。中谷監督は高校野球界に新しい風を吹かせている。【保坂淑子】