巨人の今季2軍スタッフを見た時に「これは楽しみだな」と思った。昨年は3軍投手コーチを務めた山口鉄也コーチが、2軍のチーフ格に配置転換された。

体験から「我慢」を知っている。入団テストを受け、育成選手として入団し、日本を代表するセットアッパーにまで成長した。コツコツ努力を積み重ねて支配下登録を勝ち取ったが、ファームにいた時は、最後にジャイアンツ球場を出る姿が印象的だった。セットアッパーは生半可な考えでは務まらない仕事場。相当な忍耐力を備えている。

山口なら、思いつきでのアドバイスはしないだろう。熟慮し、これでいくと結論が出るまで投手を迷わせるような軽はずみなことはしないだろう。自分の意見、意思をしっかりと持ち、山口流の指導法を編み出してほしい。

大変、大切な仕事を受けた以上は大きな戦力になる投手を作り上げる義務がある。ただ、不思議なもので努力していれば必ず孝行息子は出てくる。どのようにアドバイスし、成長の手助けをしていくか。彼に伝えたい言葉は1つである。「自分の今の仕事に飽きるな」。

楽しみと思った理由はもう1つある。山口とコンビを組む、高橋信夫ブルペンコーチの存在である。

高橋コーチは投手の経験はないが、昨年まで19年間ブルペン捕手を務め、多くの投手のボールを受けている。このようなコンビはプロ野球界では珍しい。

彼の武器は「耳学」で得た豊富な知識である。投手陣の相談にも乗っていたと聞くし、選手の苦悩、多くのコーチのアドバイスを間近で聞いてきた。技術論の発言は控えていたと思うが、今年から指導ができる立場になったのだから、今までの耳学を整理整頓して、個に合ったアドバイスをしてほしい。

私の考えでは、小さな欠点を直すより、長所を伸ばす方が成長は早い。努力ではい上がった山口コーチと、ブルペン捕手でチームを長年支えてきた高橋コーチは「我慢」を知っている。ともに控えめなところがあるが、もう少し「俺が俺が」を表に出してもいいのではないか。

腹に収めておいてほしいことがある。1軍は勝負を争う場所で、2軍は選手を作る場所である。シーズンに入れば「1軍で使える選手はいないか」と問いかけが来るだろう。舞台で仕事ができると思った時は推薦してもいいが、まだ通用しないと思った時は、キッチリと事情を説明するべきだ。

性格にもよるが、力不足で打ち込まれると、以降はマイナス思考に陥りやすくなるタイプもいる。早く世に出そうと焦らない我慢が大事になる。うまく力を合わせていけば、芯の太い、個性豊かな投手が誕生するのではないか。今季の楽しみにしたい。(つづく)

小谷正勝氏(2019年1月18日撮影)
小谷正勝氏(2019年1月18日撮影)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算24勝27敗6セーブ、防御率3・07。79年から投手コーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団でコーチ、13年からロッテ。17年から19年まで再び巨人でコーチを務め、多くの名投手を育てた。