ソフトバンク野手陣のキャンプ風景が一変した。若手のリチャードからベテラン松田まで、競い合うようにバットを振る。無観客でも、活気あふれる声が球場内に響き渡る。時には自らティー打撃のトスを上げ、打ち込む野手の姿を観察するように、見つめるのが新任の小久保裕紀ヘッドコーチ(49)だ。

7日、指導する小久保ヘッドコーチ
7日、指導する小久保ヘッドコーチ

投手部門を束ねる工藤監督に、野手部門の強化を一任された。キャンプ前に掲げたのは「1日1000スイング」というシンプルで、具体的なノルマだ。「1月は、2月に技術練習できるようにとことん体力づくりをする。2月は技術練習にあてる。技術を高めるにはキャンプの期間中くらいしか振り込めない。12カ月のうち1カ月、そのくらいは1000スイングぐらいしてほしい」。現役時代の実体験も踏まえ、練習メニューに組み込んだ。

改革は第1クール初日から表れた。打撃練習の形式を変更。フリー打撃やティー打撃、ロングティーなど8カ所をグルグル回って打ち続けるサーキット式を打ち出し、効率よくスイング量を増やす仕掛けを作った。「変化を自分で感じられたときが次の意欲につながると思う。1カ月振れと言われて振ってみたら、意外に打球が強く飛ぶようになった。そういう変化がないと自信につながらない。まずは完走する。その先には変化が待っている」。若手野手の底上げという重要ミッションへ、1カ月後の姿を楽しみにしている。

振り込む意識は浸透。全体練習後は特打に指名された選手以外も、こぞって室内練習場で居残り練習を行っている。小久保ヘッドの現役時代は、キャンプでは現ロッテ臨時コーチの松中氏と日が暮れるまでロングティーを打ち続け「練習の鬼」と呼ばれた。王球団会長も「(日本シリーズ)4連覇はしましたけど、また新鮮な気持ちでキャンプを迎えられている。小久保ヘッドコーチの存在は大きいんじゃないか」と小久保効果に寄せる期待は大きい。

やみくもに振るだけではない。これが小久保流の肝だ。「コーチ陣の考えを選手に好き勝手伝えない。球団として意見をまとめてから、情報共有した上で指導するようにしている」。チーム全体で指導方針を統一することで「選手が迷わないように」。目指すゴールに向かって、真っすぐ進んでいける道を照らすことを心がける。5年連続日本一を目指す常勝軍団に、小久保イズムが新たな刺激を与えている。【山本大地】

◆小久保裕紀(こくぼ・ひろき)1971年(昭46)10月8日、和歌山県生まれ。星林-青学大を経て93年ドラフト2位でダイエー入団。2年目の95年に本塁打王、97年打点王。03年オフに無償トレードで巨人移籍。07年にFAでソフトバンクに復帰し、12年に現役引退。通算2057試合出場で打率2割7分3厘、2041安打、413本塁打、1304打点。青学時代に92年バルセロナ・オリンピック(五輪)で銅メダル。13年10月から17年WBCまで侍ジャパン監督を務めた。現役時代のサイズは182センチ、87センチ。右投げ右打ち。