鉄道と野球との関わりを紹介する「鉄道と野球」。第6弾は、埼玉県の北部を東西に横断する秩父鉄道です。1901年(明34)に開業した全長71・7キロ、37駅のローカル鉄道は、さまざまな企画で乗客を取り込む努力をしています。

秩父鉄道の路線図
秩父鉄道の路線図

桜の花びらが、満開の菜の花畑に散る。農作業の合間に畑から手を振る地元の人に、車内の子どもも大人も手を振り返す-。今年4月、SL×野球のコラボレーションが実現した。

埼玉県北部の羽生から熊谷、長瀞などを通り、秩父市内の三峰口までをつなぐ秩父鉄道。ベースボール・チャレンジ・リーグ(BCリーグ)に所属する埼玉武蔵ヒートベアーズが熊谷市に拠点を置くことから、鉄道ファンの根強い支持を得る秩父鉄道のSL「パレオエクスプレス」とのコラボが企画された。チームの認知度を高める意図があり、地域密着、地域貢献を目指す球団と、その趣旨に秩父鉄道側も賛同し実現に至った。

「開幕戦の試合会場となる熊谷さくら運動公園野球場の最寄り駅は、先ほど通過した『ひろせ野鳥の森駅』になります」。角晃多監督(30)が緊張しながら担当した球場紹介も、車内アナウンスならでは。2日間にわたって「SLベアーズ2021」として運行され、球団マスコットのエンビーがデザインされた特別ヘッドマークを掲出。角監督や宮之原健主将(27)、チアパフォーマンスチーム「B girls」のメンバーが同乗し、パンフレットや特別乗車記念証を乗客にプレゼントした。角監督は「地元に根付いていくのが球団のスタンス。今回のイベントを開催できてよかった」と話した。

4月、秩父鉄道とのコラボ企画でSLに乗車したBC・埼玉の角晃多監督(中央)と前列左からBガールズのちえ、まこ
4月、秩父鉄道とのコラボ企画でSLに乗車したBC・埼玉の角晃多監督(中央)と前列左からBガールズのちえ、まこ

車内の装飾もベアーズ仕様になった。観客が少ないことを逆手に取り「創設7年、スタンドは全然『密』になりません…逆にベアーズ!」など自虐ネタでポスターを作成。その中に全試合配信の告知や2次元コードを入れ、試合につながるように工夫した。また、対戦するチームの挑発ポスターも掲示。BCリーグのファンにとっては、くすりと笑えるフレーズばかりだった。

BC・埼玉とのコラボだから参加している野球ファンと、知らずに乗車している鉄道ファンが隣り合わせの状況。車内アナウンスで自己紹介をした角監督は、「あの角(盈男)さんの息子さんですか?」「ロッテでプレーされていましたよね」と声をかけられる場面もあった。チームの名前も知らなかった鉄道ファンへ、確実に届いている手応えがあった。楽しそうに乗客と交流した角監督は「ちょっとずつでも、知ってもらっている実感がした。何人かでも、知ってもらえることがすごく大事。知ってもらう価値は、他に代えられない」と話した。

車内には家族連れや子どもも多く、NPB球団の帽子をかぶっている男の子もいた。鉄道ファンで、野球に興味のある層を、球場へ-。配布した特別乗車記念証を球場に持参すると、オリジナルの木製コースターがもらえる特典付きにした。「今度、試合を見に行きます」「応援しています」というエールが、何よりもパワーになる。【保坂恭子】