楽天の涌井秀章が、4日の広島戦で通算150勝を達成した。「おめでとう」と「ご苦労さん」の二言を送りたい。17年間も第一線で活躍できる要因は多々あるが、第一は両親からもらった頑丈な肉体があってこそ。精神力、技術、あらゆる面での本人の努力なくしては不可能で、理解ある首脳陣、スタッフ、同僚にも恵まれたのではないか。

4日、通算150勝を達成し、ボードを掲げる楽天涌井
4日、通算150勝を達成し、ボードを掲げる楽天涌井

私が彼と出会ったのは、ロッテの投手コーチを務めた14年だった。とは言っても、直接関わったのは不調で2軍に降格した約2週間ほど。印象として、マウンドの姿を見ていると頑固一徹で、表情が出ない鉄仮面だと思ったが、それは私の決めつけで、接する中で見えた彼の本当の姿は話の分かる好青年だった。

指摘した修正ポイントは1つだった。当時、打ち込まれる原因は真っすぐがシュート回転することだと分析した。メカニック的に言えば通常、リリース時には下にある親指が、上を向いていた。そのまま投げれば、ボールは引っかけ気味になる。修正しようするが、球持ちが悪く、ボールを押し込めずに投げるから、シュート回転する。

修正の方法として、トライさせたことが1つある。ライトポールからホームに引かれたラインを利用し、ライト線上からホームへ向かって、ジャンプしながら、外野手のバックホームの要領で投げてもらった。注意するのは、送球がファウルゾーンにいかないようにすることである。

問題だったのは、ボールをリリースする瞬間の手首の使い方だけだった。極端に言えば、シュートを投げるような感覚で投げれば、復活へのヒントは見つかると思った。また、投げる前にジャンプすることで、1度グリップは下がる。そこからトップの位置まで上げて投げるので、間合いも取れるようになると踏んだ。

理屈では分かっていても、なかなか体で実践するのは難しいが、このクラスの投手の感覚は素晴らしく、技術論の話をしても理解は非常に早かった。投手のタイトルも獲得し、確固たる理論もあっただろうが、しっかりと聞く耳を持つ謙虚な姿勢にも驚かされた。

貪欲であり、探求心や向上心が高いのだろう。ロッテを離れてからも、自身のピッチングについて、人づてに何度か聞かれた。DeNAの三浦大輔監督からもロッテの2軍コーチ時代に彼がファームで投げた試合の後は「どうですか?」と聞かれたし、西武の内海哲也もそう。この執着心が、長く投げられる秘訣(ひけつ)なのだろう。

ピッチングを見ても、1球への執着心が感じられる。いわゆる、しつこさとも言い換えられるのだが、これでもかとばかりに低め、原点のアウトローにボールを集める。相手の打者を見ながら、思ったところに投げられるから、これだけの勝ち星を積み上げられたし、まだまだやれると思わせる要因にもなる。

今シーズンも、開幕から先発ローテーションを守る。あとは何歳まで投げられるのかが、非常に楽しみである。ここまで来たら、明確な目標を持つことも大切。個人的な願いだが、元中日の山本昌を超えるプロ野球最年長勝利投手(49歳25日)を目指してほしい。涌井ならできる。(つづく)

小谷正勝氏(19年1月撮影)
小谷正勝氏(19年1月撮影)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算10年で24勝27敗。79年からコーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団で投手コーチを務め、13年からロッテで指導。17年から19年まで再び巨人でコーチを務めた。