20年1月からスタートした小谷正勝氏(76)の「小谷の指導論~放浪編」。最終シリーズ第2回は若手投手の「育成論」。

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小谷正勝氏(2019年1月撮影)
小谷正勝氏(2019年1月撮影)

社会人、大卒は即戦力なので別枠と考え、高卒で入団した選手の育成に今回はテーマを絞る。まず、彼らが育った環境、性格などその他もろもろを頭に入れ、各投手の特徴や力量から短期、中期、長期のメニューに当てはめ、進めていくのが私の考えである。

根本的に選手は入団したからには、1軍で活躍する義務がある。ただ、高卒で入団した投手はあらゆる面で急成長する年齢で、変化に気付けるかは指導者の大事な仕事だといえる。心技体から目を離さず、見守ることが重要だろう。

第一に1軍で通用するようになるには、投げる以外のことも必要となる。投内連係、けん制、バントシフト、チームプレー、攻守におけるチームのサインの把握などで、これらを難なくこなせなければ1軍での登板は難しくなる。

ファームである程度投げれば各自の適材適所も見えてくる。そうなれば、そのポジションに向かって、練習内容やゲームを消化していけばいいだろう。見誤れば遠回りになるので、ここでは正しい判断が求められる。

1軍は勝負をして、お金を稼ぐところで、2軍は戦力を作るところである。私の経験上、2軍の首脳陣は「我慢」との勝負ともいえる。

例えば、5、6回ごろにピンチを迎えた場合、おそらく打たれる確率が高いと思っても、ひと山越させるために続投させる場合もある。どのような打ち取り方でも、投手は打ち取れば大きな自信になる。

1つの方法論として、自信をつけさせるために強打のチームはさけ、打力が劣るチームに投げていくのもいいだろう。闘犬の世界では、訓練のために「かませ犬」を用いる話を聞いたことがあるが、同じようなことを試したことがある。

チーム事情とはいえ、間違っても、まだ1軍で通用しない力の投手を上げることは避けるべきだ。打ち込まれ、マイナス思考になるケースが多いからである。捕手はリードする上でマイナス思考を持ち合わせるのはいいが、投手は「オレの球を打ってみろ」のプラス思考の方が適する。

かつて、私が支えた監督の中に、このような言葉を先発投手に掛けているのを聞いたことがある。

「この試合はお前にあげたのだから、好きなように投げろ」

もちろん、ゲームを預けるだけの力量、信頼、期待度があるからなのだが、意気に感じながら投げる姿を見て、言葉の大切さを学んだ。(つづく)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。通算10年で24勝27敗。79年からコーチ業専念。11年まで在京セ3球団で投手コーチ。13年からロッテで指導し、17年から19年まで巨人でコーチ。来季からDeNAのコーチングアドバイザー。