MLBオーナー陣と選手会の新労使協定を巡る折衝が暗礁に乗り上げ、昨年12月2日からロックアウトとなった。オーナー陣の意向で、メジャーに関する全球団の機能が停止となり、トレードやFA(フリーエージェント)なども凍結された。MLBの労使交渉は、どうしてもつれるのか-。その背景を探った。

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MLBのオーナー陣と選手会との間に根付いた不信感は、今に始まったことではない。コロナ禍で公式戦が延期された20年シーズンは再開時期と試合数、年俸の算出法などを巡り、双方が情報のリーク合戦を繰り広げ、泥仕合を続けたことは記憶に新しい。昨季は不測の事態でもあり、両者とも、とりあえず振り上げた矛を収めたものの、今回の場合、依然として妥協点は見えてこない。

ポストシーズンの一部を除き、全公式戦が無観客で行われた20年は、全球団は大幅な減収となった。その一方で、直前の19年までと来季以降、各球団は巨額のテレビ放映権料(インターネットを含む)などの増収が約束されているだけでなく、球団の資産価値は右肩上がりで上昇を続けてきた。選手会側は各球団の収支情報を入手しており、経営側の懐事情をほぼ正確に把握しているとも言われる。もし、大幅な赤字で深刻な経営難に陥っていれば、選手会側も強硬な姿勢を貫くわけにはいかない。だが、利益があるにもかかわらず、戦力強化のために投資しない球団は、企業努力の放棄と受け取られても仕方ない。

選手会の委員(8人)を務めるアンドリュー・ミラー投手(カージナルス)は地元メディアの取材に対し、経営側の姿勢の問題点を指摘した。「ファンは毎晩、競争する姿を見に球場へやって来るし、我々もそれを望んでいる。それが野球界にとってベストのこと。それがどの場所であっても、1年のうちのどの時期でもだ」。収益を重視し、戦力補強を怠る経営者を非難。有力代理人のスコット・ボラス氏も「来季、勝つことを目指しているのは17球団」と明言し、他の13球団は優勝争いを断念していると主張した。

1994年、オーナー陣が、総年俸の上限を定める「サラリーキャップ」の導入を主張した際、選手会側は強硬姿勢を崩すことなく、公式戦に出場しない策を選択し、ストライキに突入した。シーズンは中断し、ワールドシリーズを含めたポストシーズンも行われず、翌95年の開幕が5月途中までずれ込むなど、空白期間は約7カ月間に及んだ。今回の場合、諸項目で接点を見いだせば、妥結するとの楽観論もある。ただ、いかにビジネスライクな米国とはいえ、互いにリスペクトを欠いたままでは状況は好転しない。22年の開幕戦は3月31日。最悪の事態だけは想定したくない。【四竈衛】(この項おわり)