今年4月に完全試合を達成したロッテ佐々木朗希投手(20)が、岩手・大船渡高の最速163キロ右腕として国内外の注目を集め始めてから3年になる。希代の才能と交わった若者たちは今、何を思うか。それぞれを訪ねた。

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佐々木朗希との交わりは1秒、1センチにも満たない。それでも、当時は作新学院(栃木)でプレーしていた福田真夢(まなむ)さん(21)には衝撃的な交点だった。

「絶対にストレートが来るだろうと思って1、2、3で行こうと。そんな打ち方、普段はしないんですけど。気付いたら、ボールが目の前にありました」

佐々木が投じた147キロが、右打者の福田さんのヘルメット右側に直撃し、一部が割れ、ひびが入った。振りに行くために体を開かなければ、決して当たらない場所。名門の打者でもそうなる球速、球威。あまりにも珍しい事象に、場内がどよめいた。「振ってないってことにしましょう」と笑って振り返る。

19年3月31日、大船渡・佐々木の投球が頭に当たり倒れ込む作新学院・福田
19年3月31日、大船渡・佐々木の投球が頭に当たり倒れ込む作新学院・福田
19年3月31日、作新学院・福田に頭部への死球を与え謝罪する大船渡・佐々木
19年3月31日、作新学院・福田に頭部への死球を与え謝罪する大船渡・佐々木

19年3月31日、栃木・矢板で作新学院-大船渡の練習試合が行われた。センバツ甲子園の大会中ながら、ネット裏にはスカウト陣や報道陣が大挙して押し寄せた。佐々木はシーズン初投げで150キロ台を連発し1、2回で4奪三振。名門を圧倒しながら、3回、8番福田さんの2球目に死球を当て、その後自身の失策もあり1点を許した。

佐々木朗希に作新学院時代、頭部死球を受けた桐蔭横浜大・福田真夢さん(撮影・金子真仁)
佐々木朗希に作新学院時代、頭部死球を受けた桐蔭横浜大・福田真夢さん(撮影・金子真仁)

現在プレーする桐蔭横浜大を訪ねた。「大船渡の試合、いつでしたっけ?」。当事者は明確に覚えていない。3月31日と伝えると「確か前々日くらいまで関西遠征で。天理、大阪桐蔭、智弁学園。自分たちもちょうど、めちゃくちゃ追い込んでた時期で。足もかつかつの状態でやってましたね」と振り返った。

猛者との戦いを重ねる中でVS大船渡が控えていると知った。「楽しみではありました」としつつ「他のチームというより、自分たちとの闘いでした。日本一を目指してやってたのに、当時は自分たちの勝ち方が分からなくて。迷っている中での試合でした」。

ただ、いざ試合が始まると野球人としての本能が大いに刺激される。「みんな楽しんでましたね。こりゃすごいわ、って言って」。ベンチへ「そんな速くないよ」と戻ってきた選手がいた。その球が実は直球ではなくチェンジアップだった、というのは彼らの持ちネタにもなっている。

佐々木は3回46球でシーズン初登板を終えた。もし佐々木が完投前提で投げていたら、と尋ねると「完封負けしてたんじゃないですか? 歯が立たなかった印象です、当時の力量では」。栃木の盟主にそう感じさせた剛速球。高校野球史上最速163キロは、作新戦の1週間後に生まれた。

福田さん自身も死球で新たな境地を得た。「あれだけ速い球に当たったから、もう怖くないなって。変な話、いい意味での逃げ道ができたというか。佐々木君とやったんだから、っていうマインドコントロールみたいな」。栃木の夏9連覇への、強烈なスイッチになっていた。【金子真仁】(つづく)