九州アジアリーグの火の国サラマンダーズから今季限りで任意引退した最速145キロ左腕、芦谷汰貴(たいき)投手(24)は、世界を股にかける一流ビジネスマンを目指す。

「野球選手としては、現役引退を決めました」と区切りをつけた。同リーグから11月18日に任意引退選手として公示されて、現在は就職活動中。「次の道は普通に一般企業に就職して、一からビジネスマンとして頑張ろうと思っています」と切り替えている。進学校の広島・修道高から九大工学部エネルギー科学科で原子力系の研究に打ち込んだ秀才だが「理系職とか考えてなくて、大学院に戻り、学生時代に学んだものを深掘りすることも今は考えてない」とし、新たな道を模索中だ。

九州アジアリーグの火の国サラマンダーズを今季限りで任意引退した芦谷汰貴(球団提供)
九州アジアリーグの火の国サラマンダーズを今季限りで任意引退した芦谷汰貴(球団提供)

さらには「海外に興味がある。大学時代に留学もしたし、海外で働いてみたい。海外勤務ができる会社を狙っています」と夢を描く。「勉強もやって独立リーグにも行った上で、社会でバリバリ活躍しているというのが見せられれば、こういう選択肢もあると思ってもらえる。誰かのモチベーション、お手本になれるようになりたい」と、理想のビジネスマン像を掲げた。

2年連続のドラフト指名漏れで夢を諦めた。プロ1本だった九大4年時、大学院には進まず、就職活動も行わない背水の陣で運命の日を待った。だが、九大から初のプロ誕生はかなわなかった。それでも「プロは諦められない」と強い意思は変わらず、トライアウトを受験して火の国に合格。今秋ドラフトを見据え、当初から「1年勝負」と決めて、全身全霊で向き合った。元ソフトバンク投手の馬原孝浩監督直伝のフォーク習得などで投球の幅を広げて活躍。投手3冠で最優秀選手に輝いた。独立リーグ王者を決めるグランドチャンピオンシップでも日本一に貢献した。

NPBスカウトの評価は高く、ソフトバンクからドラフトの調査書も届いていた。だが「事実を受け入れられない自分がいた」と、ショックの指名漏れ。馬原監督からは「もう1度残ってやろう。まだ(NPB入りへ)諦めるのは早い」と慰留されたが、1カ月周囲に相談するなどして悩んだ末に「(指名漏れなら)初めから辞めると言っていた」と意思は固かった。

決め手は「調査書も届いていたのに指名がなかった。僕の中で、これで指名されないなら、選手としてどうしたらいいか分からなかった。情熱とモチベーションが消えたことが辞めたきっかけです」と燃え尽きた。

とはいえ「遠征が一番きつかった」という経験などは貴重な財産。「国立大を出て、一流企業を目指すような人でこんな経験をした人はいないと思う。根性はついた。他の人にない能力を手に入れたと思います」。異色の経歴を糧に、世界に羽ばたくビッグな男になる。【菊川光一】(この項おわり)

◆芦谷汰貴(あしたに・たいき)1998年(平10)8月4日、広島市生まれ。小3から野球を始め中学では軟式。修道高から1浪して九大進学。火の国サラマンダーズ1年目の今季、3度のリリーフを含む19試合に登板して、いずれもリーグトップとなる13勝、防御率1・95、125奪三振をマークし優勝に貢献。球種は直球にスライダー、カットボール、フォーク。174センチ、80キロ。左投げ左打ち。