“シン・マツイ”が、世界を圧倒する。楽天松井裕樹投手(27)は、2大会連続の出場。だが、悔しさを乗り越えての戦いとなる。日の丸のユニホームに強い憧れを抱いたのは、高校3年生だった13年。東京オリンピック(五輪)の開催が決まった年だった。当時はU18日本代表に選出。代表監督を務めた大阪桐蔭の西谷浩一監督からハッパをかけられた。「お前らが(五輪で)日の丸をつけて立つんだぞと言われて。そこを1つ目標としていた」。しかし8年後、五輪代表に選出されず、夢破れた。

階段でトレーニングする楽天松井裕(撮影・鈴木正人)
階段でトレーニングする楽天松井裕(撮影・鈴木正人)

「しっかり成績を出して、代表のユニホームを着たいなって強く思って過ごしていた」と振り返る。さらなる飛躍へ。昨季はスプリットを要所で使った。近年、フライボール革命で打球を上げる打者が多くなった。それの対策として、新たな武器を磨いた。それまでは、チェンジアップでタイミングを外す投球だった。「(スプリットだと)フライでもインフィールドだったり、浅い外野フライだったり。危険度の低いアウトの取り方が理想」。低めに落とし、バットに当てられても、打球を上げさせない投球を身につけた。奪三振率も、21年の12・35に対し、昨季は14・46。大幅に向上した。

直球とスプリットのコンビネーションで、データが少ない他国の選手を仕留めていく。「三振を取れるというのは自分の武器であって、選んでもらっている意味だと思う」と胸を張る。抑えでも、中継ぎでも、ワンポイントでも、どんなときでも空振りを奪う。

前回大会では最年少で選出。経験を重ね、それから6年。投球も見つめなおし、進化し続けてきた。「マウンド上でしっかり整理できるようになりましたし、出力も含めて変わっている。勝負球とかも変わったりもしていますし、相手を見て、自分を見て、しっかり投げられるようになっている」と、成長したところはたくさんある。山あり谷ありで再びつかんだ侍の称号。世界一への戦いに向けて「楽しみというのはあまりない。勝たなくてはいけない試合の中で、自分の力をしっかり発揮できるように準備していきたい」と引き締めた。

松井の主な国際大会成績
松井の主な国際大会成績

海外野球ファンから見れば、「マツイ」といえば「ヒデキ」と「カズオ」。新たな「マツイ」が、世界を魅了する。「勝利に貢献した結果、見てもらう機会が増えたらうれしく思いますけど。ジャパンが優勝するためにできることを100%でできるようにとしか考えてないですね」。目先にあるのは世界一のみ。切れ味鋭い刀で、世界を斬っていく。【湯本勝大】