WBCに挑む侍ジャパンのメンバー30人が決定した。連載「侍の宝刀」で、30人の選手が持つ武器やストロングポイントにスポットを当てる。

宇田川の名が入ったボールを笑顔で見つめるダルビッシュ。左は佐々木(撮影・菅敏)
宇田川の名が入ったボールを笑顔で見つめるダルビッシュ。左は佐々木(撮影・菅敏)

米国代表トラウトのような「主将」の肩書はない。だが、ダルビッシュ有投手(36)は、チーム最年長となるリーダーとしての覚悟を行動で表した。昨年12月にWBCへの参加意思を表明。その後、パドレスと話し合いを行った結果、アリゾナでの春季キャンプには向かわず、2月17日からの侍ジャパンの宮崎合宿に初日から参加することを容認された。「早期合流が難しいのは確かです。ただ、自分の場合はベテランであるため、パドレスが融通をきかせてくれました」。

栗山監督の熱意に、日米通算188勝右腕は「おとこ気」で応えた。チーム編成を進めるうえで、同監督は連覇に貢献した松坂大輔氏らの経験談からも、現役メジャーリーガーの重要性を強く認識していた。昨季途中、同監督が渡米した際、ダルビッシュは過去に「1度でいいからスタメン表に、ダルビッシュと書かせてほしい」と言われた真意を理解した。同監督が日本ハム監督に就任したのは、ダルビッシュ渡米後の12年。直接の「師弟」ではない。だが、何よりも日本球界の発展を願う真摯(しんし)な姿勢に、当初「僕(の出場)はいいでしょう」と遠慮気味だったダルビッシュも、心を突き動かされた。

ダルビッシュの主な国際大会での成績
ダルビッシュの主な国際大会での成績

百戦錬磨のベテランとはいえ、ハイペースの調整は簡単ではない。開幕前に、緊迫した真剣勝負を挑めば公式戦へのリスクも少なくない。だが、1度腹をくくれば、前へ進むしかない。昨季は、公式戦とポストシーズンで計34試合に先発したが、オフも温暖なサンディエゴに残り、11月中にはトレーニングやキャッチボールを再開。年明けには、侍の一員でもある日本ハム伊藤と合同トレを行うなど、合流前から若い選手とのコミュニケーションと情報収集を開始した。

「すごく楽しみにしてます。米国、パドレスでいろいろ教えていただいていることを日本の選手とシェアできることを楽しみにしています」

9日には、パドレスと28年まで6年総額1億800万ドル(約140億4000万円)で契約を延長した。野球に取り組む姿勢、リーダーとしての資質が、侍ジャパンだけでなく、パドレスからも最上級の評価を受けた証しだった。「スプリングトレーニングに行かないで、日本の合宿に参加するとか、まさに信頼であったりと感じているので、野球をやっていてそういう信頼を得たというのはうれしいです」。

第2回まで連覇した当時のイチローのように、チームを束ねる「侍大将」。先発の軸としてだけでなく、ライバル国の選手の傾向把握、データ分析力も超一流。平均年齢27・3歳の若武者たちにとって、ダルビッシュ以上に、頼れる存在はいない。【四竈衛】