▽83年1回戦

吉田(山梨)

001 010 000 000 1 3

000 000 101 000 2X 4

箕島(和歌山)

 山梨県勢の金星は、ならなかった。83年夏の1回戦。甲子園未勝利の吉田が、春夏優勝4度を誇る箕島(和歌山)を追い詰めた。2-1の9回裏、敵のスクイズを外し勝利目前が一転、追い付かれた。延長13回表に再び勝ち越すも、その裏に逆転サヨナラ負け。吉田の2年生遊撃手だった田辺徳雄(51=西武チームアドバイザー)が振り返る。

    ◇   ◇

 2-1で迎えた9回裏だった。1死三塁と同点のピンチ。箕島の5番硯に対しカウント3-1。ここで、左腕の三浦がスクイズを外した。三本間に挟んだ三塁走者を田辺がタッチした。

 田辺 ピッチャーがとっさに気配を察した。左だから難しいんだけどね。アウトハイにクソボール。フルカウントになって、もしかしたら勝てるなと。

 2死走者なし。勝利までアウト1つ、いや、ストライク1つ。それでも“もしかしたら”勝てる。それほど「逆転の箕島」は強力だった。直後、痛感する。

 田辺 スクイズを外され、バッター心理としてはガクッとくるよね。多分、アウトロー。それをバックスクリーンに放り込まれている。野球マンガみたいじゃないか。それで同点。あれーって思ったよ(笑い)。

 吉田は、この時が通算2度目の出場。箕島との対戦が決まり「コールド負けぐらいの点差にならなければ」と臨んだ。金星目前で、伝統校の底力を見せつけられた。今だから笑って話せる。もっとも、田辺個人にとって、マンガの結末は笑えないものだった。13回表、看板の機動力を生かし、ダブルスチールで1点勝ち越し。だが、その裏、1死満塁を招き、箕島の6番打者のゴロが遊撃に飛んできた。田辺には、二塁走者と打球が重なった。

 田辺 ちゅうちょして足が止まってしまった。ランナーが視界から消えた時には、もうボールが来ていた。対応できれば良かったけど、足が動いてない状態。

 体に当たり、前にこぼす失策。三塁走者の同点の生還を許した。なお満塁で、次打者が三遊間を破った。

 田辺 スローモーション。そこそこ速い当たりで、飛びつく暇もなかった。

 サヨナラ打を見送った。9回、13回と2度にわたりつかみかけた金星が、抜け落ちる瞬間だった。

    ◇  ◇

 田辺は打撃では6タコ。2年生で味わったつらい経験が、意識を変えた。

 田辺 自分自身が、もっと強くならなきゃいけない。先輩たちの分までやろうと、妥協せずに練習した。

 3年時は甲子園出場は逃した。当初目指した大学進学ではなく、西武に入団。黄金期の主力として活躍し、監督も務めた。今は現職の傍ら、郷里の野球振興にも力を入れる。山梨県は首都圏で唯一、甲子園優勝がない。公立も含む県全体の底上げがカギと指摘する。

 田辺 (強豪私学なら)山梨は甲子園に出やすい。そういう高校のレギュラーは他県の選手で占められる。地元のうまい子が入っても、まだ他県の子が上。すると、周りの公立が弱くなる。良い循環ではない。

 他県から選手が来ることを否定はしない。ただ、現状は強豪私学に戦力が集中し、格差が広がっているとみる。自身も県立出身。

 田辺 中学あたりの指導が重要。地元の子のレベルアップを図って、公立も(県大会の)準決勝、決勝に絡んでこないと。

 野球教室やボーイズリーグに関わっている。県勢初優勝につながる日を願って。(敬称略=おわり)【古川真弥】

83年8月、夏の甲子園、吉田-箕島戦の9回、三本間に挟まれた三塁走者勘佐寿人をタッチアウトにしグラブを突き上げる遊撃手田辺徳雄
83年8月、夏の甲子園、吉田-箕島戦の9回、三本間に挟まれた三塁走者勘佐寿人をタッチアウトにしグラブを突き上げる遊撃手田辺徳雄
83年8月、夏の甲子園、吉田-箕島戦の延長13回、サヨナラ負けを喫しガックリとうなだれながら整列に向かう吉田・田辺徳雄遊撃手(手前右端)
83年8月、夏の甲子園、吉田-箕島戦の延長13回、サヨナラ負けを喫しガックリとうなだれながら整列に向かう吉田・田辺徳雄遊撃手(手前右端)