大リーグの話題といえば、しばらくエンゼルスの大谷翔平ばかりで「テレビ中継もないし、実際、どうしてるんかいな」と思っていたら、いきなり、これです。

 マリナーズ・イチローが会長付特別補佐に就任。星野仙一さんが阪神を優勝させ、監督を勇退した03年オフにオーナー付シニアディレクター(SD)に就任したことで特別な形でのフロントという存在が日本でも知られるようになりましたが、選手から直接、いや、まだ現役選手というから、正直、どういうことなのか分からない。

 貧相な想像力で考えれば兼任コーチみたいなものなのでしょうか。でも、それよりはグレードが相当、上っぽいし。しかも来季以降の現役続行の可能性がある。でも今年は出ない、という。これもよく分からない。

 やはり、これは普通に考えてマリナーズ側が礼を失しない形で用意した引退への“軟着陸”と受け取るのが正解なのだろうか、と思ってしまいます。

 だけど、それもこれもひっくるめて「さすが。イチロー」と思ってしまいます。

オリックス時代のイチロー(1994年9月20日撮影)
オリックス時代のイチロー(1994年9月20日撮影)

 イチローの最大の魅力は「神秘性」でしょう。210安打で彗星(すいせい)のごとく世に出たオリックス時代の94年にしても、なんという打ち方をするヤツが出てきたのか、とみんな思ったものです。

 だけど、それを当たり前にして、さらに打ちまくる。そう思えば大リーグ移籍の情報がドンドン出てきて、揚げ句には本当に行ってしまう。行ったと思えばいきなり首位打者です。そこで打ち立てた記録はいちいち書けないぐらいです。

 オフのトレーニングの様子をのぞいても体形も20代の頃とまったく変わっていません。「実は太ったりしてるんですけど」と笑って話したこともありましたが、まったくそうは見せません。「最低でも50歳まではプレー」というのは本気も本気でしょう。

 そんなイチローが昨年から今年にかけて粘った末に契約を勝ち取ったマリナーズですが、まだ十分というほどの出場機会を与えたとは思えません。正直、中途半端な感じもしています。やはり引退への特別なステップなのか、という気もしてきます。

マリナーズのイチロー(左)はオープニングセレモニーでフィールドに登場し、ナインにタッチで迎えられる(撮影・菅敏=2018年3月29日)
マリナーズのイチロー(左)はオープニングセレモニーでフィールドに登場し、ナインにタッチで迎えられる(撮影・菅敏=2018年3月29日)

 でもイチローはこれまで周囲が想像もできないことを何度も成し遂げてきました。本当に不思議な男です。

 夫人と犬と暮らし、毎日、カレーやうどんを食べているらしい。断片的な情報は伝わってきますが実情は分からない。そんな私生活を含めた「神秘性」が数々の記録と並ぶ最大の魅力でしょう。

 「来るべきときが来たのか」。そう思わせる状況の中で、来年、また涼しい顔でグラウンドに立っているかも。そう思わせるところがイチローの楽しさ、と言えば、間違いでしょうか。