波乱の4月が終わった。9勝20敗1分け。まさかの展開だった。それでも底は抜けた、と思わせてくれる連勝に、少しだけ光が差し込んできた。

キャンプ中、「予祝」まで行った。監督として矢野は苦しい1カ月を過ごした。強烈なバッシングの中、一方で負けない心が宿ったのかもしれない。試合の中、ホームランを打った選手に、メダルをかける役を買って出ている。こんなこと、監督のやることではない、と個人的に思っているけど、もうなりふり構っていられない。矢野は完全に開き直っている。僕にはそう思えてならない。

現役時代、阪神で2度優勝に貢献し、幸せを味わった。でも2度、悔しい経験がある。2008年の歴史に残るV逸、そして昨年、監督として12球団最多の77勝をマークしながら、頂点を逃したこと。これを晴らさなければならない。2位、3位でクライマックスがある…なんてことではない。レギュラーシーズンで1位を取ること。それしか悔さを晴らすすべはない。

ただ目の前に立ちはだかる「10の壁」は相当高い。借金「10」の壁、首位とのゲーム差「10」の壁。4月23日時点で最大13・5ゲームあった首位(この時は広島)との差は5月1日までの6連勝で9に縮まったとはいえ、過去、この壁を突き破って優勝したチームは、本当に少ない。それほど厳しい数字である。

今回の逆バージョン、それは2008年だった。最大13ゲームも離した巨人に最後、強烈にマクられた。今年、反対現象が起きるのか。そこで2008年の監督、岡田彰布が語っていた言葉を思い返した。

誰もが優勝間違いなし、と思った進撃だったが、それをも上回る勢いで巨人が牙をむいたのは7月からだった。13ゲームの差をつけていたが、その時、巨人は3位だった。阪神はというと、極端な下降はなく勝率5割ペースを崩さなかった。「それでも巨人が追い付いてきた。そら、すごい迫力を感じたわ。ウチは普通に戦っているんよ。だが巨人は異常やった。さすがに最後、こらアカンと思ったな」。

阪神も3試合連続サヨナラ勝ちなど、劇的な勝ちもあったけど、芽生えた危機感は消えない。「もうウチの野球やなかった」とおびえる背景には、迫る巨人の影があったからだ。だから今シーズン、あの時の逆転現象が起きても不思議なし…の論法は成立しないか。

もちろん、3位から追い上げた巨人と、最下位からの阪神とは状況が違う。まだ4月が終わったばかりという時間的余裕はあるが、上には5チームがあるという立場的な状況…。「10の壁」を越えるのは、相当な覚悟がいる。

歴史に残る5逸を味わった矢野が監督として、歴史に残る大逆転劇を導けば、それこそ歴史に残る監督になる。そんな野心をモロに出し、先に書いたようになりふり構わず、目の前の戦いに挑む。これしかない。

現在のプロ野球、80勝すれば優勝ラインに到達するとされる。これを書いている時点で残り112試合。80勝には70勝42敗(引き分けなしの場合)となる。底を脱しただけで、こんな希望的数字を並べるのは、確かにいかがなものか、とは思う。しかし、常に目標値を設定していくのはいいことだ。少ない連勝で浮かれているのではなく、これを再スタートの局面ととらえてもらいたい。

元々力のあるチームであることは、認めている。クライマックスなんてちっぽけな目標設定ではなく、2008年のリベンジ。14年前の借りを返すくらいの思いで戦ってくれ。あの屈辱を知る選手は誰もいなくなった。ベンチの矢野、投手コーチの福原、守備走塁コーチの藤本…、彼らにやり返す舞台が目の前にある。簡単なことではないし、まだまだ準備も整っていない。まずは「10の壁」をひとつひとつ取り壊していく。笑える5月にしてほしい。(敬称略)【内匠宏幸】 (ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「かわいさ余って」)