2022年最後の原稿です。振り返ると、いろいろありました。阪神タイガースもそう。監督が変わり、オーナーも変わった。新たなスタートは新たな体制で、となった。

何を最後に書くか…と迷ったが、やはり新監督のことを記す。ここ最近、球界関係者、マスコミの人間から、よく聞かれる。「岡田さん、ホンマにマルくなった?」。確かに。40年以上の付き合いのある僕も感じている。以前なら、プイッと横を向いてしまうことも、いまはフラットな状態で聞き入れている。ご機嫌? そうかもしれない。65歳で監督再登板、機嫌が悪いはずがない。

12月24日付のスポーツ新聞。競馬のビッグイベント、有馬記念の紙面予想に岡田が挑戦した。大きく扱われた予想は的中したのか、外れたのか。結果は25日に出るが、スポーツ新聞に対してのサービス、これくらいなら岡田は引き受ける。「いろいろと頼まれるけど、ありがたいことよ。できる限り、露出していくつもり」。岡田はいまの心境を明かしている。

これもファンサービスだが、年が明けると岡田は必ずシビアになる。野球に向き合う2023年の1月。ここから完全に本気モードに突入する。そもそもファンサービスとは? と岡田は考えてきた。ファンに喜びを与え、笑顔を届ける。それには「勝つ」こと。この1点しか岡田の頭にはない。

前監督、矢野は相当意識してファンと向き合っていた。それは間違いではないし、正論だけど、やはり予祝や選手サイドに立ち過ぎた采配は、僕には理解できなかった。

岡田は矢野の試みを受け継ぐことはない。姿を消す事柄が多くある。まず選手を愛称で呼ばない。矢野はほとんどニックネームで選手を呼んだ。これは彼なりの寄り添い方、信頼関係を強くする一環だったのだろうが、岡田はそんな方法は取らない。大山なら矢野は「悠輔(ユウスケ)」と呼んだが、岡田は「オオヤマ」である。佐藤輝も青柳も「サトウ」であり「アオヤギ」と呼ぶに違いない。

前回監督時、愛称で呼んでいたのは藤川の「キュウジ」、金本の「カネ」くらいだと記憶している。他は必ず名字で呼んでいた。ニックネームで関係が深まる? そんなことを岡田はサラサラ考えていない。

ホームランを打った際、出迎える矢野はファン手製のメダルを選手の首にかけていた。これにはファンは大喜びしていたが、これも消える。岡田がメダルをかける光景、想像できますか? それよりベンチで次の手を考えている。そういう監督なのだ。

ヒットを打ったらベース上で拳を上げてベンチに合図を送る。これも見慣れた光景だし、ベンチも応えるように、多くの手が上がっていた。ムードを高める。一丸となって戦っている。そんな証しのようなものらしいけど、来シーズン、阪神は過度なはしゃぎ方はなくなると思っている。タイムリーやホームランなら、まだわかるけど、ヒット1本くらいで、そこまで大騒ぎできるか? 岡田はこういうことが苦手で、推奨する気はないはず。理想は慌てず騒がず、ドシッと構えて勝負に挑むチームなのだ。

さらにこんなこともある。試合前の練習で、コーチが個人をつかまえ指導する姿が時にある。すでに相手チームが球場入りして、練習を見ている。そんな中で個人レッスン。「相手にわかってしまうやんか。調子が悪いことを見せてどうする? 指導するなら見えないところでやらなアカンよ」。ここまで考える監督なのだ。

今年もゲーム終了後、全員がベンチ前に整列してファンに頭を下げてきた。勝っても負けても、この儀式は続いたが、岡田は負けたら腹が立って、あいさつは拒むとみている。そんなことが最も嫌いなのだ。負けることが嫌い。勝つことしか考えない。この徹底ぶりは40数年の付き合いで見てきた。いまもまったくブレていない。

ファンのために! 「そんなん、決まってるやん。勝つこと。それしかないやろ」。そんな岡田野球、ファンの皆さんの反応はいかに…。(敬称略)【内匠宏幸】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「かわいさ余って」)