阪神の沖縄・春季キャンプは第1クール終了。極めて順調なようで、監督の岡田彰布も納得の表情を浮かべている。

「ここ数年、コロナ禍の影響で、何をするにも制限が設けられた。それがなくなったわけやし、気分的にもホンマ、エエ感じ」。それを表すように、すでに「臨時コーチ」として球団OB、球界OBが続々、宜野座を訪れている。制限がなくなり、球団も受け入れを自由にしている。

ただし、岡田は常に節度を重んじている。それを如実に示したのが前監督時代のこと。球場に姿を見せた著名な球界、球団OBが、何の予告もなく練習中のグラウンドに入ってきた。この時点で岡田は見て、見ぬふりをしていたが、次のOBの動きにカチンときた。伸び盛りの若手バッターに話しかけ、バットを手にアドバイスを送り出したのだ。

グラウンドに入るまではいい。だが、何の断りもなく、教えだすというのは「ルール違反」。岡田はすぐに球団ブースにいた当時、管理部長だった島野育夫を呼んだ。「あの評論家、グラウンドから出してください。やりすぎやろ」。島野はつかつかとそのOBのもとに行き、何事かを伝えた。直後、グラウンド退去となったわけで、この光景、一連の動きを僕はずっと目で追っていた。

当時の岡田は年齢が40代。元気はつらつ、イケイケどんどんの頃で、のちにこう述懐している。「評論家、OBでも越えてはならぬ一線があるやんか。勝手に選手を教えて、それもコーチの了解も得ずにやで。そらアカンやろ」。こういったケジメを岡田は重要視する。

あれから20年。好々爺(や)のごとき風情を漂わす岡田は今年もグラウンドに球団OBを呼び寄せ、臨時コーチを任せた。第1クールでは赤星。盗塁のスペシャリストであり、盗塁、走塁に加え、外野守備を若手にコーチング。これを岡田はにこやかな表情で見守っていた。「球団のOBには、部門、部門においてすごい実績を残した者がたくさんいる。その知識、経験を若い選手に注入してもらいたい。臨時コーチもそうやけど、すべてのOBはそらウエルカムよ」。これまで入れなかったブルペン。捕手の後ろにあるスペースにも、制限なく入ってもらって結構。節度さえ守ってくれれば、フリーで。いまはこういうスタイルに移行している。

これから先、鳥谷らが臨時コーチとして宜野座に姿を見せる予定になっている。岡田がかねて願っていた「球団OBの育成、指導者への道筋」を岡田自身が積極的に取り組んでいる。「これまでできなかったこと。OBでチームを作る。OBが監督になって、コーチになって、ホンマにオール阪神で戦っていくというのかな。それができる球団になってきている」と、これから先のことを見据えている。

阪神といえば「お家騒動」。これが昔の球界の定説だった。監督交代を巡って起きる内紛、コーチ人事のゴタゴタ。こういうことが昔は当たり前だったが、いまや球団としても成熟した。これからキャンプは中盤に向かうが、OBの臨時コーチぶりも見もののひとつ。岡田のうれしそうな顔が目に浮かぶ。【内匠宏幸】(敬称略)

赤星臨時コーチ(右)の指導を受けての走塁練習を見つめる岡田監督(左後方)(2024年2月3日撮影)
赤星臨時コーチ(右)の指導を受けての走塁練習を見つめる岡田監督(左後方)(2024年2月3日撮影)