これは絶対に「大爆発」する。それも過去イチの大噴火になる…と思っていた。それがどうだ。穏やかに振り返るだけの監督に、驚いた。

9月8日のヤクルト戦(神宮)。すでにデーゲームで巨人、広島が負けていた。さらに差を詰めるチャンスがきた。ところが、ひとつのイージーミスで暗転。佐藤輝の捕球ミス。スポーツ新聞に「伝説的ミス」の見出しが並んだが、監督の岡田彰布は、ほとんど触れなかった。試合後の会見の最後。「6時から始まっていたら勝ってた」と、「岡田語」で締めくくった。

この1週間前。岡田と対面で話した。「厳しい状況やな」と何げなく伝えたら、にらまれた。「エッ、何が厳しいん? これからやんか。ここからがホンマの勝負なんやからな」。監督として諦めることはない。いや、それ以上にチャンスはあると思っている。「あの時がそうやった…」。岡田の決意の裏にあるもの。それは16年前の実体験があるからだった。

16年前といえば2008年。こう書けばファンならわかる。球史に残る5逸のシーズンだった。改めて詳しく振り返る必要もないだろうが、終盤まで阪神は2位に大差をつけ、逃げ切り態勢を整えていた。優勝への重圧もなく、勝率5割のペースを保ち、5ロードを歩んでいた。

だが信じられぬ事態が…。巨人の猛追だった。当時の監督、原辰徳のニヤリとした表情が忘れられない、と岡田は言う。阪神のペースをはるかに超える勝ちっぷりで、巨人の姿が大きくなっていく。一時、13ゲームも離していたのが、あれよ、あれよの間にどんどん詰まってくる。巨人の大型連勝、もう止めることはできなかった。

「それでも勝ち切れると思ってたけどな。追われる苦しさといううのかな。恐怖心ばかりで、巨人と戦うのが怖かった」。巨人に逆転された夜、岡田は潔く、監督を辞することを決めた。

あれから16年だ。今回は逆のケース。「諦める」どころか、ここからが勝負と決め、今回は追う立場の強みを示すと決めた。だから、ミスにも言及することはなかった。これまでなら、佐藤輝の守備に対し、厳しく追及して、責め立てていたはず。だが、この期に及んで、そうすることはしなかった。失敗を振り返っても仕方ない。ここからは前を向く。勝つしかない。それだけや、と岡田は決めている。

これが監督としての勝負勘かもしれない。「追われる辛さ、しんどさをいやというほど味わった。上に立ったら、立ったで、ホンマ、しんどいんやから」。これをいま、阿部も新井も感じているに違いない。そこに付け入るスキが生まれる。66歳の最年長監督が勝負をかける。残り16試合。どんな采配を見せるのか。豊富なキャリアをどう生かすか。【内匠宏幸】(敬称略)

ヤクルト対阪神 3回裏ヤクルト1死、長岡の三飛を落球する佐藤輝(撮影・前田充)
ヤクルト対阪神 3回裏ヤクルト1死、長岡の三飛を落球する佐藤輝(撮影・前田充)
ヤクルト対阪神 9回表阪神2死、戦況を見守る岡田監督(右)。手前は一ゴロに倒れた佐藤輝(撮影・河田真司)
ヤクルト対阪神 9回表阪神2死、戦況を見守る岡田監督(右)。手前は一ゴロに倒れた佐藤輝(撮影・河田真司)
ヤクルト対阪神 3回裏ヤクルト1死、長岡の打球を落球する佐藤輝(撮影・前田充)
ヤクルト対阪神 3回裏ヤクルト1死、長岡の打球を落球する佐藤輝(撮影・前田充)