ティー打撃を行う巨人香月(2020年9月12日撮影)
ティー打撃を行う巨人香月(2020年9月12日撮影)

ソフトバンク、阪神、中日で2軍バッテリーコーチを務めた日刊スポーツ評論家の田村藤夫氏(60)が13日、イースタン・リーグ巨人-西武戦(ジャイアンツ球場)を取材し、ロッテから沢村とのトレードで巨人に移籍した香月一也内野手(24)の現状をチェックした。

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香月がどんなバッティングをしているのか、楽しみでジャイアンツ球場に足を運んだ。

第1打席はカウント1-2と追い込まれて、インコース高めのストレートに詰まって一塁ファウルフライ。

第2打席は死球。

第3打席は2ストライクと追い込まれてから、フォークかシンカーの変化球が真ん中辺りに来るも、手が出ずに見逃し三振。

第4打席はカウント1-2からインコースのストレートに詰まり、センターフライ。

3打数ノーヒット1死球だった。

スタンドから見ている限りでは、香月は全打席でストライクゾーンを全て打ちに行っているように見えた。3打席目の見逃しだけ、浮いてくるような変化球に「あっ」という感じで、手が出なかったような感じだった。

スコアをつけながら香月の打席を見ているうちに、香月の胸の内を思わずにいられなくなった。打ちたいんだな、と。結果を出したいんだ、と。ストライクを打ちにいくスイングを見ながら胸中を思い描いていた。

ストライクを振るのは悪いことではない。本来は積極性があってプラスの姿勢として評価できる。ただ、香月の内容を見ると、もう少し早いカウントでは狙い球を絞って打ってもいいのではないかと、そんな思いが頭をよぎった。

大阪桐蔭で甲子園も経験し、プロ6年目の香月のこと。それはよく理解しているはず。では、なぜこの日のようなバッティングになるのか。本来なら本人を取材をして、その真意を確かめたかった。だが、現状は選手への直接取材は限りもあり、通常のように声をかけることはできない。今はスタンドから見て、どういう状態にあるのかを推察しながら、考えてみるしかない。

私はこう感じた。沢村とのトレードで巨人に移籍した。その沢村は優勝争いをするロッテで見事なデビューを果たした。それは香月もよく分かっているだろう。だから、打ちたいんだろうなと。結果を出したい、その一心でストライクゾーンを夢中で振りに行っているのではないか。あくまで臆測だが。

格差トレードとして、沢村、香月の移籍は大きな話題を集めた。年俸に大きな開きがあり、実績にも差がある。沢村はトレードされた時は2軍だったが、元々は1軍の戦力。形の上では巨人の2軍からロッテの1軍へ。香月はロッテ2軍から巨人2軍へ。そして沢村は移籍後すぐに1軍のマウンドで結果を出した。香月に意識するなと言うのは酷な話だと感じた。

プロ野球界は非情な現実が至る所にある。香月は求められて巨人の一員となった。プロ野球選手としてはありがたく、やりがいを感じることだ。恐らく本人も、そこはよく理解はしているはずだろう。分かってはいても、どこかで沢村と比較されているだろうし、そんな空気を感じるからこそ、結果を出したいともがくのだろう。

苦しいだろうが、自分のバットで切り開くしかない。この試合、西武先発はアンダースローの与座だった。対戦した第1打席と、第2打席では、本来なら右のアンダースローは左打者が打つべき相手。そうしたことも、今の香月には打たなくては、との重圧になっているのかもしれない。

まず、試合状況を把握して、狙い球を絞って打席に入る。そして初球は狙い球を頭に入れ、たとえストライクゾーンに来ても待ってみる。消極的になれという意味ではなく、追い込まれるまでは自分が待つボールに狙いを定めてみる。それも1つのやり方だ。この試合の香月のように、ストライクゾーンすべてを振りに行くことで結果が出ないなら、その他のやり方を試してみるのも、きっかけをつかむことにつながるかもしれない。

取材を元に香月の気持ちを確かめたわけではない。すべてはスタンドから見た私が感じたことだ。ただし、結果を求めて苦しんでいるように見えたのは、私だけではないと思う。

香月のそばには阿部2軍監督がいる。もしも、頭が混乱しているならば、ボールの待ち方を聞いて整理して試合に臨んでもらいたい。こうして阿部2軍監督の元で野球ができるのも巡り合わせだ。1軍昇格を目指し、今は必死にボールを追ってほしい。(日刊スポーツ評論家)