田村藤夫氏(62)が中日の沖縄・北谷キャンプを訪れ、プロ3年目の石川昂弥内野手(20=東邦)がバッティングに試行錯誤する姿を取材した。立浪新監督の期待は大きく、石川昂の成長とチームの打線強化は比例関係にあると強く感じた。

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全体練習終了後、室内練習場でマシン打撃練習をする石川昂弥(2022年2月15日撮影)
全体練習終了後、室内練習場でマシン打撃練習をする石川昂弥(2022年2月15日撮影)

遠くへ飛ばせるバッターが、チームに与える影響は大きい。昨年の中日は投手力では他球団の上を行ったが、打てないことで苦汁をなめた。立浪監督に求められるのも打力強化にほかならない。

17日の北谷はあいにく小雨まじりの悪天候だった。室内練習場で石川昂はマシン相手に打ち込んでいた。隣では森野コーチがつきっきりで京田を指導している。石川昂には中村打撃コーチがついているが、少し離れたところから見てはいるが、声はかけない。

石川昂は時折ノーステップで打ってみたり、タイミングの取り方をひとつずつ確認しながら打っていた。立浪監督が室内に顔を出すと、隣の京田には「いい感じだな」と声はかけるが、石川昂には何も言わなかった。むしろ、そうした雰囲気に、首脳陣が石川昂に注ぐ大きな期待を感じる。声をかけないのは「しっかり苦しみながら新しいバッティングを自分のものにしてほしい」という空気に私が感じたからだ。もちろん、大きくフォームを変えた京田には、今は自信をつけさせるための声がけだったと理解している。

昨年の秋季練習を取材したが、ナゴヤ球場で中村打撃コーチが付きっきりで指導し、石川昂はその期待に応えるように、見事な打球を左翼スタンド上段へ飛ばしていた。ポイントを前で打てという中村コーチの指導を理解し、しっかり前でボールを捉えていた。

ルーキーだった20年の春のキャンプで初めて石川昂のバッティングを見たが、室内でマシンを打ち込んでいたスイングは、外でどこまで飛ばすか見たいと思わせた。飛ばすという非凡なものを持っている。

186センチ、104キロのスケールで素晴らしい打球を飛ばす。この世代の右打者としては球界でもトップの素材と言える。この石川昂がスタメンにはまると、ビシエドの長打に頼っていた中日打線にもうひとつの軸ができる。それが立浪監督が描く打線強化のひとつの答えと言える。

練習の合間に立浪監督の話を聞くことができた。真っ先に名前が出てきたのはやはり石川昂だった。バットが出てこないことを気にかけていた。「石川に使えるめどがつけば三塁で起用しようと思っています」。当然のことながら、頭の中に構想はある。その言葉から逆算すると、二塁は高橋周になるだろう。それを考えただけでも、ずいぶんと厚みは増すと感じる。立浪監督の言葉には、何とかその形で開幕を迎えたいという意欲がこもっていた。

石川昂は実戦形式になるとバットが出てこない状態にある。昨秋はいい感じで振っていたが、ここに来て迷いが生じているのかもしれない。バッターならば分かる感覚だと思うが、バッティングを変えた直後というのは、意外にスムーズにいくものだ。それが、時間がたっていくと、少しずつ自分の感覚との差が気になりだす。まさに、石川昂の苦悩もそうした類いのものだと見えた。

しかし、そこは避けては通れない。ここから紅白戦、練習試合、オープン戦と実戦が続く。投手はタイミングを狂わせようと狙ってくるのだから、常に自分の理想のタイミングで打てることは少ない。悩みながらバットを振ることは、強打者の宿命とも言える。

広いバンテリンドームで、外野手の頭を越す打球を打てるスラッガーが、中日打線を変える。弱冠20歳の右の強打者はそうなることを求められてドラフト1位で地元球団に指名された。苦しいだろうが、とことん試し、目いっぱい振ってほしい。(日刊スポーツ評論家)

全体練習終了後、室内練習場でマシン打撃練習をする石川昂弥(2022年2月15日撮影)
全体練習終了後、室内練習場でマシン打撃練習をする石川昂弥(2022年2月15日撮影)