2度の脳の病を乗り越え、最後の夏に挑む明星・清水(提供写真)
2度の脳の病を乗り越え、最後の夏に挑む明星・清水(提供写真)

球児たちの夏が本格的に幕を開ける。第101回全国高校野球選手権に向け、大阪大会などが6日にスタートする。古豪・明星(大阪)では守備練習中もヘルメットをかぶりながらプレーする清水聖也外野手(3年)がいる。2度も脳の病に侵されながら、野球を続行。高校最後の夏、感謝の思いを胸に戦う。

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後頭部には、今も手術の痕が残る。病との闘いが始まったのは高校1年の10月。台風が迫った悪天の日だった。「朝から吐き続けてました。歩けないし、立てなかった」。病院で検査を受けると、「海綿状血管腫」と診断された。脳内に発生する血管腫の1つで、過去に大病を患った経験もない清水にとって、突然の出来事だった。

グラウンドに戻りたい。それだけだった。一時は命の危険も危ぶまれたが、11月上旬、8時間に及ぶ手術を受け無事成功。3日間は自力で立ち上がれなかった。「ベッドの上でぼーっとしていたら野球がしたい、動きたいって思いが出てきました」。リハビリはバランス感覚を取り戻す練習から始まった。清水を支えたのはチームメートたちから受け取ったビデオレター。「もう1回野球やろう」。球友からのエールが何よりの励ましになった。

「はやくそこの世界に行かないとって励みになりました」。呼応するように、周囲も驚く速さの回復を見せ、12月末に復帰。医師からは死球の危険性からプレーの続行に難色を示されたが、野球を続けた。不測の事態に備えて遠征先には病院の連絡先、カルテのコピーを持ち込み、周囲や両親もバックアップ。捕手から接触プレーが減る外野手へ転向もした。病気は乗り越えた、はずだった。

今年3月。再び脳の病が清水を襲った。自宅で宿題に取りかかった時だった。字が書けず、右半身に違和感を感じた。病院で診察を受けると、診断は脳梗塞だった。再発ではなく、また別の形での発症。春府予選は開幕直前。「夏も迫ってくる時期。こんな時に何してるんだろうって」。再び病に行く手を阻まれた。手術は回避できたが、検査と入院で2カ月グラウンドを離れることになった。

17歳が乗り越えるには高すぎる壁だった。「吉村監督は『戻ってきてくれって』言ってくれて。すごくうれしかった。電話もくださって。頑張ろうって思いました」。春季府予選は不出場となったが、吉村監督から「入院してるからかわいそうとかじゃなくて、お前が取った番号だから」と20番の背番号を送られた。「野球が好きだから」、野球をやめる選択肢は生まれなかった。入院中は、病院の駐車場で腕立てや素振り、走り込みに取り組み続けた。決死の思いで5月に復帰。夏の大会に間に合わせた。

グラウンドでは頭部を守るために、守備練習中でも耳当てのないランナーコーチ用のヘルメットが欠かせない。血流を良くするために水分補給は欠かせず、チームメートも「水飲んで」と常に声をかけてくれる。「両親、先生、チームメートに恵まれた。こんな環境ほかにない」と感謝は尽きない。

打って、守って、走る。1つ1つのプレーをこなせることに喜びを感じている。「普通に走れて、投げれて野球ができる。グラウンドで野球ができることがうれしい」。吉村監督は「本当に野球が好きな子。みんないろいろ抱えてプレーをしている。なかなか命かけてやっている子はいない」。今も再発の可能性を秘める。月に1度の検診に通い、毎朝3種類の薬を服用する。病を乗り越えてきたからこそ痛感した思いだ。

この夏、清水に渡されたのは背番号17。情けで与えた背番号ではない。吉村監督は「ずっと見ていた中であの子を上回れる子はいない」。3年間の努力は知っているからこそ託した。「えこひいきはしません。でも、チャンスがあればゲームに出ているところをみてもらいたい」。

出番があるかは分からない。だが、この夏の自分の役目は清水が誰よりも分かっている。「できることは少ないかもしれないけど、できることをやる。誰よりも熱いプレーをします」。譲れない夢もある。「甲子園に行きます、絶対。大好きなメンバーと夢をかなえたい」。支えてくれた両親、指導者、チームメートへ。感謝の思いを伝える夏にする。

明星は15日、羽衣学園と清水谷の勝者と初戦を戦う。【望月千草】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

◆清水聖也(しみず・せいや)2001年(平13)9月2日生まれ、大阪府枚方市出身。小学3年でソフトボールを始め、枚方二中では野球部に所属し捕手。明星では捕手から外野手に転向。1年秋にベンチ入り。174センチ、70キロ。右投げ右打ち

◆明星 1898年(明31)創立の私立男子校。野球部は春夏通算12回甲子園出場。1963年(昭38)には夏の甲子園優勝の古豪。主なOBに和田徹(元南海)、平野光泰(元近鉄)ら

明星・清水がプレー中に付けているヘルメット(撮影・望月千草)
明星・清水がプレー中に付けているヘルメット(撮影・望月千草)