身長160センチ、65キロの“野球の虫”が走攻守で躍動した。作新学院(栃木)の松尾翼内野手(3年)は決勝で得意の走塁をからめ、貴重な2点目のホーム生還。守備面でも好守を連発した。「勝ってみて、振り返ると長かったです。悔しい思いをしてきたのでよかったです。守備面では、一、二塁間を意識し、ポジションも変えていきました」と振り返った。

中学3年で、10万人に1人と言われる「脳動静脈奇形」を患った。先天性のものだった。10月に判明し11月に手術をした。「両親も苦しかったと思いますが、ずっと付き添ってくれました」と闘病のつらさではなく、両親への感謝だけを口にした。

母年江さんは「作新で野球をやりたいからメスを入れたんです…」と当時を振り返ると涙があふれた。入学後も「作新野球」は想像を超えるモノだった。「1年生の時に、ついて行けなくて、野球の事で初めて泣いたんです」と息子の挫折を明かした。

もがき苦しんだ中でも、得たモノがある。母は「昔は自分の事だけだったのに、今はサポートしてくれた仲間のために戦うって言うんです」と息子の変化をうれしそうに語った。

松尾は「覚悟があれば何でもできる。甲子園では、新チームから目指してきた日本一になるために、1戦1戦しっかり戦っていきたい」と意気込んだ。

迷惑をかけたという両親に対しては「レギュラーとして活躍できているのは自分の力ではない。本当に両親のおかげ。ここまで育ててくれてありがとうと言いたいです」。高校野球で周りへの感謝の大切さを学んだ。体は小柄だが、甲子園でも勝利のために、ユニホームを誰よりも汚し走りまくる。【佐藤勝亮】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

作新学院対文星芸大付 6回表作新学院2死、左前打を放った作新学院・松尾翼(撮影・佐田亮輔)
作新学院対文星芸大付 6回表作新学院2死、左前打を放った作新学院・松尾翼(撮影・佐田亮輔)