プロ野球ドラフト会議(10月17日)まで、残り約2週間となった。冒頭からの宣伝で誠に恐縮ながら、日刊スポーツも「ドラフト特集号」を発売した。

年始の会議で「ドラフト候補生全員!? 会いにいきます」と題し、候補選手たちを野球カード風に紹介していくことが決まった。今回の特集号でもたっぷり掲載させていただいた。

野球カード制作において、私が「これだけは、ぜひ」と掲載を主張した項目がある。それは選手の出身地。例えば大船渡・佐々木朗希投手なら「岩手県出身」ではなく「岩手県陸前高田市出身」と区市町村単位まで載せましょう、と。

ドラフト指名を受ける選手は、毎年極めて限られた数だ。高校生でいえば、全国約5万人の3年生球児のうち、選ばれるのはわずか0・1%ほどの精鋭のみ。ドラフト1位で選ばれる可能性は、小数点の後ろに0がもう1つ増える。プロ入り後は自身の努力に全てがかかるが、少なくともドラフト指名時点で、彼らは「郷土のヒーロー」だ。地元の声援は、彼らにとっても大きな励みになる。

とりわけ「地元初」の場合、影響力は大きい。私が生まれ育った神奈川・座間市は10年前までプロ野球選手と無縁だった。09年ドラフトで向上(神奈川)の大型右腕・安斉雄虎投手が横浜(現DeNA)に3位指名され、初のプロ野球選手誕生に地元は盛り上がった。

けがに悩まされ、わずか4年の現役生活だった。しかし安斉氏は当時培った人間関係で、昨冬、巨人村田修一ファーム打撃コーチら豪華メンバーによる少年野球教室の座間開催を実現させ、後輩となる野球少年たちを大いに喜ばせた。「育ててくれた地元に恩返しをしたいんです」と話していた安斉氏は最近、町の美化活動にも積極的に取り組んでいる。

調べると、全国にはまだプロ野球選手を輩出したことがない自治体が約900市町村ある。昨年は大阪桐蔭・根尾昂選手のドラフト1位指名に、地元の岐阜・飛騨市が沸いた。「ドラフト特集号」の野球カードを眺めていると、どうやら今年も「地元初」の栄誉に輝く選手が現れそうだ。

大船渡・佐々木が指名されれば、陸前高田市からは久しぶりのプロ野球選手になる。三陸の期待を一身に背負って、プロへ羽ばたく。一方で地元ではこんな声も出てきている。

「野球選手はいつけがをするか分からない。朗希君だって、大谷選手のようなメジャーリーガーになるかもしれないし、そうなれるように全力で応援したい。でももし、けがとかで力を思うように発揮できないまま帰ってきたとしても、温かく迎えてあげたい。地元とはそういう場所であるべきだと思うんです」

今年も全国各地でドラマが生まれる。【金子真仁】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)