限られた環境で何ができるか。プロ野球のある在京スカウトの言葉がヒントを与えてくれる。高校、大学、社会人とも、ほぼ全てのオープン戦、リーグ戦、大会が中止となり「やることないですねえ」と嘆いたが「見えなかったところが見えてきました」と続けた。

球団から自宅待機を命じられている。予定されていたスカウト会議も延期状態。「練習にお邪魔するわけにもいかない」。担当するドラフト候補のデータを洗い直すぐらいしかできないが、気づいたことがあるという。「足りないポイントが見えてきました。いい点は、最初に報告する時に書いてるので」と言って、2つの例を挙げてくれた。

(1)A選手 俊足だが、意外と内野安打が少なかった。「課題の『振り切る』に取り組んでいるのでしょう。成長段階ということ。だからこそ、春でどうなるか見てみたいですね」。

(2)B選手 高打率だが、通算本塁打が少なかった。「この1年で伸びた選手なんだと思います」。

こんな具合。来る時に備え、担当選手を違う視点から見る時間に充てている。たとえ、手元に映像がなくても「ネットにあります」。コアなファンがアップしてくれている。スマホ1つでお目当てにたどり着ける時代。スカウティングもテレワークは可能なようだ。

もっとも、それは一部にすぎない。現場に行けないことで「痛い」ことは、もちろんある。「やはり、僕らは動きながら情報を得るんです。もう何十年も、その大会や地区を見ている人たちがいる。球場で会うと『プロに行ったあの選手と比べて、どうだ』とか、『中学時代はこうだった』とか教えてくれます」。ネットでは得られない。プロのスカウト顔負けの、文字通り“生”の情報がある。実際、そういう在野の人からの話を元に初めて存在を知り、指名に至った選手もいるという。

今秋、果たして無事にドラフト会議が行われるのか。そこまで事態が逼迫(ひっぱく)する可能性は否定できない。それでも、彼は「ドラフトがどうなるか、我々が決めることではありません。いつも通り、あると思って準備します」と、今日も自宅で机に向かう。(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)