ひと昔前になるが、浦和学院(埼玉)の取材は正直、退屈に感じることが多かった。試合後、活躍できた理由を問うと「森先生のおかげです」。二言目には、こう返答する選手が多かったからだ。野球漬けの毎日でボキャブラリーに乏しいのは仕方ない部分もあるが、本心なのかどうかが分からなかった。ロボットと話しているような、不思議な感覚にとらわれた。

時は過ぎ、22年1月28日。選抜高校野球の出場校発表があり、浦和学院に取材に行った。森大監督(31)は昨秋、父の森士氏(57)から監督職を引き継いだ。就任すると、自分の話を「選手がどれぐらい理解してるのか」に疑問を抱いたという。「インプットして、彼らがアウトプットできるように言語化、文字にする力を身に付けさせたいなと思った」。高度な指導を受けさせたとしても、選手が理解しなくては意味がない。受けた指導を自らの言葉として言語化し、他者に伝えることができれば、理解したといえる。

「脳を鍛える」として、選手に小論文、読書感想文を3度ずつ課した。1度は元マリナーズのイチロー氏が高校の指導に行った映像を題材にした。文章を書く回数を重ね、徐々に指定文字数を伸ばしていくうちに、選手のコミュニケーション能力、アウトプット能力が上がったという。

3人の選手に話を聞いた。ひと昔前とは違い、条件反射のように「森先生のおかげ」を口にする選手はいなかった。質問に対し、自らの頭でじっくり考えているように感じた。チームが今後、甲子園で勝ち上がるのかどうか、まだ分からない。ただ、試合後の談話は楽しみになった。【斎藤直樹】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)