書かずにおこうかと思ったがやはり書く。原口文仁のことだ。ロッテ1回戦の4日、試合前。ZOZOマリンの三塁側ベンチで久しぶりに彼の顔を見た。ファームの練習、試合には行けていなかったので申し訳なさといろいろな思いをこめつつ「帰ってきたんやな」と軽く声を掛けた。

わざわざ右手の革手袋を外して握手してきた原口がそこでなんと言ったか。

「あ-。見てましたよ。イチローさんの記者会見。高原さんの質問になんかイチローさんが笑いながら答えてましたよね。すごいな~と思って見てたんです」

何を言い出すのかと思ったが、もちろん、すぐに理解する。アスレチックスとの開幕2連戦で現役引退したイチローの引退記者会見があったのは3月21日深夜のことだ。そこで今後についての質問をした際にあったイチローとのやりとりはいろいろなところで冷やかされたが、こんなところで来るかと驚いた。

原口自身は復帰を目指して連日、苦しい日々だったはず。「家でずっと見てましたよ。すごいな」。自分が“主役”の復帰戦を前に原口はそんなことを熱心に言った。そういう男だ。だからみんなから好かれる。

4日の試合で代打適時打を放った原口だがこの日は出番がなかった。そして7日の日本ハム戦から、いよいよ甲子園に戻ってくる。地元のファンは心待ちにしているだろう。

「原口が戻ってきて戦力になってくれれば。打力のある選手が増えるということだけではない。ムードが変わりますよ。計り知れない影響があると思います」。ある球団幹部は交流戦を前にこんな話をしていた。

言いたいことは分かる。闘病生活からの復帰だけでも人の心を打ち、力をもたらす。そこに加え、優勝を狙うための本物の戦力になれば。ドラマでもそんな話は作らない。それを思うとワクワクしてしまう。

交流戦最初のカード、ロッテに勝ち越して迎える日本ハム戦だが、週末にかけての甲子園の天気予報はよくない。特に7日ははっきり雨が降るとか。そこで夢想する。いまの原口なら雨雲までも吹っ飛ばしてしまうのではないか、と。

あのときイチローは自身のことを「人望がない」と繰り返した。もちろん、そんなことはないのだけれど。それは別にして原口には間違いなく人望がある。そしていい流れもある。甲子園は彼を待っている。(敬称略)

3月21日、引退会見で報道陣の多さに驚くマリナーズ・イチロー氏
3月21日、引退会見で報道陣の多さに驚くマリナーズ・イチロー氏