7回2死二、三塁の好機で代打に鳥谷敬がコールされたとき、甲子園は大いに盛り上がった。雨が降ったり止んだりの平日ナイトゲームという悪条件にもかかわらず、3万9335人の観衆。その9割以上を占める虎党からの声援だ。

しかし結果は記事にもあるように二ゴロ。声援はため息に変わった。この試合、唯一とも言えるチャンスで待望の役者が登場した格好だが、多くが望む結果はもたらされなかった。

正直な感想を書いておきたい。

鳥谷がベンチ前で素振りを始めたとき「ここで鳥谷か」と思った。打順は8番捕手の梅野隆太郎に回った。そこまで梅野は中日先発の小笠原慎之介の前に2打席凡退していた。しかし投手は藤嶋健人に代わっている。右対右になるが梅野には勝負強さもある。

「梅野がつなげば次の投手の打順で代打鳥谷やな、これは」。そう思って見ていたが梅野に代わって鳥谷。指揮官・矢野燿大は勝負に出た。そう思った。

采配にはクールさも必要だが、ときには演出も重要だ。鳥谷を巡るここ数日の現状は虎党なら知っているはず。そんな中で前日、矢野は鳥谷について「(活躍が)ムードが良くなる1つの材料」と話していた。

ここで鳥谷に逆転適時打が出れば…。試合は一気に有利になり、観客も沸き、逆転Aクラスへのムードも高まる。それこそ、すべてがうまくいく。

だが今季、ここまでの鳥谷の成績は、虎党ならこれも知るところだろう。故障で試合に出ていなかったわけではない。「打点0」という現実もある。

指揮官が自分の判断で起用を決めるのは当然だ。そして起用された選手は全力でやるだけ。期待した結果が出れば文句なしだったがそうはならなかった。

梅野は「久しぶりに代打を出された感じだったんで。悔しかったですね」と率直な感想を口にした。これも選手として当然だろう。

決まれば最高。そうでなければ…。今後、鳥谷起用の場面ではこんな感じが増えるかもしれない。

「作戦は監督が決めることなんでね。お客さんも沸いたし、あそこで結果が伴えば最高だったんですけど」。ヘッドコーチ清水雅治はそう振り返った。

低いながらもAクラス入りの可能性が残る今、チームに情と冷徹さのバランスが必要な時期が来た。そう思っている。(敬称略)