またしても“節目”の勝利と言ってしまいそうだ。ルーキー佐藤輝明が「マー君」こと田中将大から中押し16号ソロ。虎党はもちろん、負けたとはいえ楽天ファンも納得してしまう試合だったかもしれない。

同時に阪神にとっては殊勲者の多い派手な内容になった。田中から先制2ランを放った主砲・大山悠輔、8回の男となった藤浪晋太郎の投球、さらに9回の猛攻とクローズアップされる場面、選手は多い。だが「流れ」の面で大きかったのは、そこに名前のないマルテの貢献だったと思う。

田中はさすがの貫禄だった。立ち上がりから3回まで阪神打線を相手にパーフェクト投球。4回も簡単に2死を取った。テンポよく投げ込む田中の前に早めの勝負を仕掛けたのか。そこまで打者11人は5球を投げさせたのが最多だった。

しかし4回2死からのマルテは違った。得意の選球眼を生かし、田中に8球を投げさせて四球をもぎ取ったのだ。ボールと判定された7球目の外角低めストレートはきわどい球だった。田中も複雑な表情を浮かべていたが、結局、次の8球目で四球。その後に大山の先制弾が飛び出した。

交流戦当初、マルテは苦しんでいた。3カード目のオリックス戦まで34打数4安打の打率1割1分8厘、3打点と低迷。リーグ戦42試合で打率ジャスト3割、8本塁打、23打点と活躍した姿に陰りが見えていた。

休ませた方がいいのでは…とも思ったが指揮官・矢野燿大はその存在感を重視し、起用を続けた。すると4カード目からのソフトバンクから調子を上げるではないか。交流戦の後半3カードは1試合を残し、この日まで28打数11安打で打率3割9分3厘、3本塁打7打点と“V字回復”だ。

そして変わらず好調なのが持ち味の選球眼だ。リーグ戦では42試合で24個。交流戦もこの日まで17試合で9個と相変わらずのペース。全体でもヤクルト村上宗隆(52個)に次いでリーグ2位の33個だ。

「マルちゃんの状態もまた札幌あたりからちょっとよくなってきているんで。チーム全体としてはマルちゃんDHっていうのができる。明日は一塁を守ってもらおうとは思ってるけど」

前日11日、逆転弾を放ったマルテに対し、矢野はそう話していた。体調を考慮しながら起用を続けたことがいい方向に出ている。交流戦勝ち越し決定の一因だろう。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)