「ありがとう」って言ってもらえばエエのに。チラッとそう思った。虎番記者の記事にもあるように、この日の試合前、ほっこりする光景が見られた。

宮城在住ですっかり有名になったのは佐藤輝明の祖父母だ。この日も球場を訪問。そこで祖父が佐藤輝に小遣いとおぼしき封筒を渡そうとしたという。苦笑しながらそれを断った佐藤輝。周囲からも「キミが渡す方だろう」と突っ込まれたそうだ。まあ、プロ選手としては当然かもしれない。

それでも、と思う。祖父からすればかわいい孫に違いないのだ。頑張っている姿を見れば、ちょっと小遣いでも…と思うのは自然だろう。いろいろな考えはあるだろうけど「受け取ればいいのに」と感じた。

それが祖父を喜ばせることにつながるからだ。若い佐藤輝にすれば人前のことで恥ずかしいし、照れくさかっただろう。それでも「ありがとう」と受け取れば祖父はうれしく、誇らしい気持ちになったはず。

もちろん、お互いに水くさい関係ではないだろうし、こちらが余計なことを言う必要はない。それでもこんな小さなところに野球を含めた興行はもちろん、人が充実して生きるための“神髄”があると思う。

「オレの夢はな、阪神と楽天が日本シリーズを戦うことなんや。ホンマに阪神もたまには優勝してファンを喜ばせてやれよな」。指揮官として阪神、楽天を優勝に導いた闘将・星野仙一は生前、そう話していた。この3連戦を見ながら、その言葉が思い出されて仕方がなかった。

さすがに両リーグの首位を行くチームの戦いだ。2戦目こそ楽天ルーキーの内間拓馬が不調で点差がついたが3試合中、2試合で1点差勝利。幸運にも阪神は3連勝できたが紙一重の結果だろう。

この日は、9番・梅野隆太郎の3個を含めて5四球を選んだ阪神打線の粘りと四球を出さなかった阪神投手陣の集中力が勝敗を分けた気がする。それでも頂上決戦ばりの展開、楽天ファンは悔しいだろうが、野球ファンは楽しめたはず。

「誰かを喜ばせる」。これは指揮官・矢野燿大が就任以来、言ってきたことでもある。虎党はいま喜んでいるだろう。それにしても激闘だった。この秋、本当にこの顔合わせになるのかも…と思ったりもする。そのとき闘将は空の上で「おもろいやないか」とニンマリすることだろう。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)