島田海吏の背中が赤星憲広に見えた…というのは言い過ぎだが、スタメンで結果が出なかった前日の借りを返した形だ。ドキドキする、これぞ天王山。負ければ、いよいよ終わる土壇場で指揮官・矢野燿大が“非常時リレー”を繰り出して競り勝った。起用した側とされた側が呼応して、阪神最大の強みを発揮できた形だ。

4回表阪神無死一、二塁、送りバントを試みるも失敗する小野寺(撮影・鈴木みどり)
4回表阪神無死一、二塁、送りバントを試みるも失敗する小野寺(撮影・鈴木みどり)

確かに継投策の思い切りはよかった。それを攻撃面でも感じたかったという思いは残る。同点の4回、無死一、二塁だ。打席には6番スタメンの小野寺暖。ここでベンチはバントを命じた。しかし投手前のゴロを高橋奎二が処理。二塁走者大山が三塁で封殺され、作戦は失敗に終わった。

小野寺の“犠打”についてはこのコラムでも数度、書いた。そんな狙いで起用している選手ではないだろう、と。ロハス、坂本誠志郎に期待したのだろうが、スタメン起用している以上、ここは併殺の危険があっても小野寺で強攻する場面ではなかったか。

3回表阪神無死一塁、二ゴロ併殺に倒れる中野(撮影・鈴木みどり)
3回表阪神無死一塁、二ゴロ併殺に倒れる中野(撮影・鈴木みどり)

逆に1点リードの3回だ。1番・近本光司がこの日2個目の四球で出塁し、無死一塁。打者は中野拓夢だ。1回の第1打席は、やはり無死一塁で三振に終わっている。2度続けて同じ場面での強攻は併殺打に倒れた。

好調だったルーキーの中野だが、今は調子を落としつつある。前日の6回、やはり併殺打に倒れた中野を矢野はベンチに下げていた。投手交代の関係もあったのだが、少し不振のにおいを感じているからだろう。

ようやくと書けば正しいかどうか分からないが、いま大山悠輔に“気配”がある。前日は本塁打、この日も1回に先制打を放っていた。好調時の中野なら強攻策は大賛成だ。だが現状、この場面こそバントで得点圏に近本を置く形で大山に回してほしかった。

1回表阪神1死一、二塁、大山は左前適時打を放つ(撮影・加藤哉)
1回表阪神1死一、二塁、大山は左前適時打を放つ(撮影・加藤哉)

もちろん結果論である。だが矢野も「悠輔に打って(チームを)勝たせたという打点をあげてもらえたら…」と虎番キャップたちに話したようだ。ギリギリの状況が続く中で選手が乗っていく、選手を乗せていく勝負勘のようなものがうまく働いていないような気もする。島田の幸運な二塁打以外の4安打はすべて単打。重苦しい流れがあるだけにそれは重要だろう。

打てば流れが変わるであろう佐藤輝明の出番も含め、選手起用、采配に今こそ冷静かつ大胆な判断が求められる。硬くなっているヒマはないはずだ。(敬称略)