昔話におつき合い願いたい。30年近い野球記者生活の中で、ある意味、強く記憶に残っているのは22年前、00年7月2日の広島-巨人戦だ。当時の広島監督・達川光男が試合後に審判室へ怒鳴り込むのを目の当たりにしたのである。

「エエかげんにせえ!」。達川は興奮していた。当時の広島市民球場はネット裏が狭く、球団関係者席、審判室は記者のいる場所のすぐそば。チーフコーチだった木下富雄が「監督、やめとき!」と制止していたのも覚えている。

達川の怒りは先発・山崎慎太郎が大事な局面でゴジラ松井秀喜に投じた球をボールと判定されたことについて。ストライク、ボールの判定に不満を持つのはたまにあることだが審判室に怒鳴り込むのは異例だ。

「あれは絶対にいかん。現役時代から審判にストライク、ボールの抗議はいかんと知っていたのに」。後日、達川からそんな反省の言葉を聞いたが、そのときは怒りに震えていた。

背景には昔からこの世界に漂う“伝説”があったのではと思っている。「微妙な判定は巨人有利」というものだ。実際にはそんなことはないと理解しているけれど関係者、ファンの間にその伝説は生きているような気もする。

そんなことを思い出したのは言うまでもなく7回のプレーがあったからだ。1死一塁から梅野隆太郎は遊ゴロ。二塁手・吉川尚輝はピボットプレーで一塁へ送球しようとしたが走ってきた熊谷敬宥と接触するような形で倒れ込んだ。

これに「熊谷はセーフでは」と指揮官・矢野燿大がリクエスト。敵将・原辰徳は「不正な走塁では」とこれもリクエストした。ビデオで見る限り、セーフ、アウトのタイミングは微妙だったが判定は「ボナファイド」の判断で“併殺”に。

あの走塁でそうなるのかとは思ったが判定は判定。矢野も「仕方ない」と言っていたようだし、どうこう意見はない。それでも例の伝説がチラリ頭をよぎったのも事実である。

何より大事なのはそんな試合に勝ったことだ。これは大きい。前日は守備のミスで一時逆転を許しながら勝利。この日は微妙な判定で不利になりながら勝った。どちらも負けていてもおかしくない試合。そこで勝てたのは流れがある。もちろん巨人が弱っているからでもあるのだが、そこは勝負。4日もキッチリ勝って広島戦に弾みをつけたい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

巨人対阪神 5回表阪神1死、左越えソロ本塁打を放つ梅野(撮影・たえ見朱実)
巨人対阪神 5回表阪神1死、左越えソロ本塁打を放つ梅野(撮影・たえ見朱実)
巨人対阪神 5回表阪神1死、ソロ本塁打を放ち、ナインに迎えられる梅野(左から2人目)(撮影・菅敏)
巨人対阪神 5回表阪神1死、ソロ本塁打を放ち、ナインに迎えられる梅野(左から2人目)(撮影・菅敏)